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About Koichi Murakami

2019年ラグビーワールドカップ問題に思う

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新国立競技場のニュースが連日メディアを賑わせている。2019年のラグビーワールドカップ(RWC)の開催会場としては間に合わないことになり、ラグビー界はとりあえず横に置かれたような状況だが、ラグビーファンの皆さんは不安でいっぱいだろう。新国立競技場で行われる予定だった開会式、開幕戦、決勝戦はいったいどこでやるのか。これについては、いろんな見方が出ている。当初の招致活動時に決勝戦会場に想定されていた横浜の「日産スタジアム」、東京の「味の素スタジアム」、あるいは、「埼玉スタジアム」である。最近、よくこの手の質問をされるので、その時に答えていることを書いておきたい。
今年の3月に発表されたのは、RWC2019で試合が行われる12の開催都市(会場)である。東京都が新国立競技場だったわけだ。その新国立が使えなくなった場合、筋としては東京の中で他会場を探すのが第一だろう。しかし、味の素スタジアムは収容人員が約5万人で、改修が必要になる。あるいは、東京で準決勝、7万人収容の横浜で決勝という手もあるかもしれない。RWCは約45日間行われる。開幕戦と決勝戦で使用するとなれば、その間、他のスポーツは使えない。開催会場が発表になったときに気づいた方も多いと思うが、RWC開催中にスポンサー名を冠したスタジアムの名は使えない。RWCのために広告看板なども外し、RWC仕様にしなければいけないのだ。また、周辺にRWCを盛り上げる施設も必要で、スタジアム周辺の環境問題になる。会場を決めるのは、そう簡単なことではないわけだ。
身の丈に合ったスタジアムでいいではないか、という意見もあるが、RWCで日本側に入ってくる収入は入場料収入だけ。客席数が少なくなればそれだけ収益は低くなる。決勝トーナメント他、人気カードについては席数をできるだけ確保したい。当初の12会場で新規に作るのは新国立と釜石鵜住居復興スタジアムのみで、他は改修で対応することになっていた。改築が予定されている東大阪市の花園ラグビー場などを6万人収容にして開幕戦という夢のような意見もあるが、巨大スタジアムを作れば維持費もかさむ。日本ラグビーの現状を考えれば、ラグビー場としては4万人までだろう。埼玉県の熊谷ラグビー場は、建て替え予定の秩父宮ラグビー場の受け皿も目指して、常設24、000席と仮設6,000席でRWCでは3万人規模にする計画だという。ラグビー場の規模としてこのあたりが現実的な線だという気がする。

5万人以上の観客を集める試合は多目的スタジアムで開催するしかない。ラグビーの母国イングランドで開催される今年のRWCでも、ウェンブリースタジアムなど主にサッカーで使用されるスタジアムが複数使われる。フットボール仲間として共存していくことが日本でも必要だと思う。また、陸上トラックのあるグラウンドでRWCを開催していいのか、と気にする意見もあるが、2003年のオーストラリア大会、2007年のフランス大会のメインスタジアムは陸上トラックのある多目的競技場だった。ただし、スタンドが可動式でトラックが隠れるようになっていたのである。ニュージーランドでも競技場はクリケットと共用するところが多い。ラグビー場以外でRWCの試合をすることは、けっして恥ずかしいことではない。仮設でもいいので、トラックを隠れるようにして、タッチラインに近い席を設けてもらいたいという希望はあるが。
7月24日、2020年東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムがお披露目された。「多様性やすべてを包み込む世界を表現した」とある。ふと、「多様性」を表現することこそ、ラグビーの出番ではないかと思った。日本代表にもさまざまな人種、民族の選手がいる。肌の色も体型も様々だ。ラグビーワールドカップの国代表規定は国籍を問わない。同じ場所でプレーする仲間の代表という考えだ。スタジアム選びも重要だが、2019年に、そうしたラグビー文化を発信し、「平等」な社会の実現につなげることも大事なことだ。RWC2019は、何を大切にするのか、そのことがいつも真ん中にあってほしい。