日本でラグビーを始めた多くの人たちは、コーチや先輩から、ノーサイド精神などラグビー独自の文化を学ぶ。ラグビーにはどんな体型、性格の人にも適したポジションがある。多様な価値観を認め合い、仲間とともに戦い、相手選手とも友達になる。激しいスポーツだからこそ、分かり合えるのだ。僕もそう教えられて育ってきた。高校ラグビー部時代のことで、ひとつ思い出したことがある。
僕は比較的おとなしい生徒だった。ケンカを売られても買わない。むしろそういう場所は避けていた。勉強はできなかったけれど、優等生タイプに見えただろう。中学時代からの友人の一人に、やんちゃな生徒がいた。窓ガラスを割ったり、気に入らない生徒とケンカしたり、体が大きいこともあって暴れん坊だった。ラグビー部が人手不足になり、彼を誘ったことがある。意外にあっさり、ラグビー部に入ってくれた。
初めて一緒に試合をした翌日、教室で話しかけられた。「お前、すごいな。ヘタレやと思ってたわ」。気弱でケンカもしない、ヘタレ野郎だと思っていたのに、何度もタックルを決めたことに感心したらしい。僕はヘタレかもしれないが、タックルは好きだった。それからぐっと親しくなった。そいつもコンタクトを怖がらすに体をぶつけた。自分をさらけ出して戦うスポーツだからこそ、仲良くなれたと思う。学校で一緒に生活しているだけなら、彼にとって僕はいつまでもヘタレだったろう。
ゴールデンウィークに福岡県宗像市のグローバルアリーナで行われる「サニックスワールドラグビーユース交流大会」を取材した。16回目を迎えた同大会は、世界のラグビー界唯一の単独高校による選手権だ。今年も世界各国から8チーム、日本からも8校が集った。ここで毎年目にするのが、人種、民族、国籍を超えた高校生たちの心温まる交流だ。僕が解説者として仕事しているJSPORTSは、大会のハイライト番組を制作するのだが、今年はワールドカップイヤーということもあり、主要チームのキャプテンによる座談会を企画した(※初回放送は、5月21日 JSPORTS 1 18:00~19:00)。
南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリア、イングランド、日本(東福岡、常翔学園)の各校キャプテンが集い、ラグビーについて語り合った。僕も同席したが、「ラグビーとは」という質問に各国のキャプテン達は、「生涯続くフレンドシップ」など我々日本のラグビー人が学んできたことと同じ内容を答えた。とても嬉しい気持ちになった。
キャプテン達の中に車椅子の選手がいた。常翔学園の金澤功貴キャプテンだ。高校1年生の夏(2013年8月)、合宿中に頸椎損傷の重傷を負い、四肢麻痺で車椅子生活を余儀なくされている。しかし、前向きにリハビリ中だ。金澤君は「ラグビーとは」という質問に、「生きがい」と答えた。「僕はラグビーでこんな怪我をしたけれど、いま支えてくれているのはラグビーの仲間です。これからもラグビーを盛り上げて行きたい」。彼は今もラグビーを愛し、チームの先頭で高校日本一を目指している。
取材終了後、金澤君は準備した英語で各国のキャプテンに激励のメッセージを送った。各キャプテンが握手を求めた。金澤君は懸命に手をあげようと努力した。しばらく手を差し出していたキャプテンたちは、手が簡単にはあがらないことに気づき、優しく金澤君の手を握った。どのキャプテンもリスペクトする視線だった。ともに戦わなくとも、同じラグビー選手として彼が勇気ある男だと理解したのだろう。きっと10年後、20年後に再会しても、彼らはこの日の出来事を覚えているはずだ。キャプテンたちの交流を見ながら、ラグビーというスポーツに感謝した。
そして、ずっとラグビーを好きでいて良かった、このスポーツを伝え続けて行きたいと改めて思った。