BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

09th スポーツをやる者同士の礼儀

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福岡で森重隆さんに会った。明治大学、新日鐵釜石で活躍された元日本代表CTBの森さんである。今年で早明戦が80周年を迎えるため、ラグビーマガジンが記念誌を編集している(11月末発売)。その取材だった。
明治のことをたくさん聞こうとしていたのだが、森さんは、最近のラグビーについて語り始めた。そして、こう言った。
「最近、キャプテンが相手チームの怪我した選手のところに行かなくなったろ」
確かに、近頃は、相手チームの選手を気遣う仕草を見なくなった。僕も高校時代キャプテンをしていたが、相手チームの選手が倒れると、必ず「大丈夫ですか」と確認したものだ。誰に教えられるまでもなく、先輩達の姿を見てそういうものだと思っていた。ときには、腹部を強打して息苦しくしている選手の腹を伸ばしてやったりもした。ごく自然な行動だった。危険をともなうスポーツをやる者同士の礼儀である。
各チームが専門的強化を進める昨今では、そんなヒマがあったら、次の作戦を確認したり、水分を補給することが大事なのかもしれない。だけど、ラグビーっていう競技は、そういうことを大切にしてきたはずだ。だからこそ、どんなに激しいプレーをしても試合が終われば互いに仲良くなるのであり、ともに酒を酌み交わせるのである。ラグビージャーナリストとして、森さんの言葉でそれを思い出したのは、恥ずべき事であった。

森さんの頃は、早明戦が終わると選手同士で一緒に飲みに行ったそうだ。今も九州では早慶明のOBたちの交流が盛んであるそうだ。伝統校だけを美化するつもりはない。僕は大阪体育大学だし、高校時代は大して強いチームではなかった。それでも今も対戦相手の選手と交流が続いている。現在の選手もそれは同じ事だろう。できれば、試合中に相手を気遣う姿勢もなくしてほしくないと思う。特に子供達から憧れられるチームの選手達には、立派な行動を期待したい。

早稲田大学、日本代表で数々の名勝負を演出した大西鐵之祐氏の著書に『闘争の倫理』がある。大西哲学とも呼べるものだが、端的には、全身全霊をかけた戦いのなかで、相手を傷つけまいとする理性ということになるだろう。ルールを守るより以前に、フェアに戦うために自らを律する行動である。

こんなことを今の選手に求めるのは、歳をとったということいかもしれない。だが、闘争の倫理は、ラグビーから失われてはいけないもだと、僕は信じている。