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About Koichi Murakami

呉英吉先生、熱血スピーチ

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高校ラグビーの強豪校のひとつ大阪朝鮮高級学校の監督として8年間チームを率いた呉英吉(オ・ヨンギル)さんが退職し、新たなスタートを切ることになった。同校、朝鮮大学を卒業した呉さんは、体育教師として27年間にわたって大阪朝高で教鞭をとり、ラグビー部のコーチを経て監督となり、8年間で7回全国大会にチームを導く手腕を発揮した。そのうち2度、ベスト4に進出している。
4月19日、京都市内のホテルで行われた、「呉先生の門出を祝う会」には、親交の深い京都成章高校ラグビー部の湯浅泰正監督の呼びかけで、全国各地から約100名の指導者、関係者が集い、呉さんの門出にエールを贈った。実は、呉さんの退職が明らかになったのは、3月上旬のこと。短期間で多数の指導者が集ったのは、普段から各高校間で練習試合や合同練習を繰り返す高校ラグビー指導者の絆の深さゆえだろう。
呉さんの後継者として監督に就任するのは、これまでコーチを務めていた権晶秀(コン・ジョンス)さん。大阪朝高ラグビー部6代目の監督となる。呉さんの退職は人事異動が引き金のようだが、「最後は自分のわがままで退職することにしました」と潔く新たなチャレンジを決めた。今後、一年間は大阪朝高ラグビー部をサポートするが、「海外研修、イングランドW杯視察など、いろいろ見て感じたい」と話す。会の最後に呉さんが挨拶したのだが、そのスピーチが力強く、ラグビー愛にあふれ、このスポーツの魅力を表現したものだったので、記しておきたい。ほぼ全内容だが、話し言葉なので少し読みやすくしてご紹介したい。

【振り返ると、1992年に大阪朝高を国体に出すかどうかという問題になったとき、たくさんの大阪の先生が「日本で生まれた子なんやから、出してやれや」と言ってくれた。そして、1994年にはじめて全国大会予選に出してもらえました。最初は紙袋に草履で公式戦に行きました。日本の高校生は揃った服を着て、きちんとしていました。それを見ながら、俺は何を教えて来たんだと思った。公式戦に出してほしいと言いながら、公式戦の場でこんなことに気づくなんて、俺は何をしているんだと思ったのです。
その後、日本の高校の先生たちと交流させていただいて、1998年に初めて大阪府予選の決勝に進むことができました。常翔啓光学園、大阪工大高(現・常翔学園)、東海大仰星、大阪桐蔭など大阪の強豪と戦うなかで、うちには何かが足りないと思いました。なぜ全国大会に出られないかと考えると、人間形成だと気づきました。昔は、僕らみたいに、やんちゃで、ケンカに明け暮れていた生徒を更生させるのがラグビーだと思っていた。でも、違うのです。イギリスで生まれたこのスポーツで、世界各国が目指しているのは、ラグビーというスポーツを理解し、ジェントルマンシップ、ノーサイドの精神を伝えることです。

僕は大阪で生まれて、在日として差別を受けてきた。でも、逆差別している自分達に気づいた。違うぞ、ノーサイドだぞ、と。先代の金信男監督も、日本の高校の先生に頭を下げて試合を申し込み、そうした歴史があって今があるのです。やはりラグビー精神、人間形成が大事なのだと思った。生徒を世の中に役立つように、どのような選手として育てるのかを考えないといけない。そこを気づかせてもらって、それを子供達にも要求して、服装を整え、相手チームへの挨拶、礼儀、レフリーとの接し方、一つ一つを学んで、子供達が気持ちの部分でもラグビーへの関わり方が変わったことによって、6年連続で大阪の代表になることができたと思います。
大阪の代表として全国制覇できなかったことは心残りです。ただ、若い世代の指導者がたくさんいます。そういう先生方が切磋琢磨し、大阪、近畿、そして日本の高校ラグビーを引っ張ってほしい。よきライバルは自分を発奮させ、鼓舞してくれるものです。僕も先輩方に教えられてきました。常翔学園に94-0で負けた悔しさ、東海大仰星に一回も勝てない悔しさもありました。でも今、垣根を越えて、こうして、先生、監督の皆さんとお酒を酌み交わし、話ができるのはほんとうに嬉しい。ラグビーというスポーツは、こういうことができるのです。『60万回のトライ』という映画に出演させてもらい、そこで、「スポーツは社会を変える」という話をしました。こういうことだと思います。
これが2019年の日本開催のラグビーワールドカップにつながって、みんなの力で成功させたい。そして、その後も、ラグビースクールから高校、大学、社会人と、もっともっと発展するラグビー界にしていきたいです。高校ラグビーからはいったん引くことになりますが、地域ラグビー、小学校、中学、高校、大学、トップリーグ、日本の、世界のラグビーも視野に、自分に何ができるか、一年間模索していきたいと思います。
ラグビーからは離れられません。それが僕の決意です。まだ47歳なので、いろんなことができると思います。これからの自分を見ていただき、気づいたことがあれば叱責、ご意見いただければありがたいです。ここに家内と次男がいますが、次男は大阪朝高の2年生で、長男は法政大学でやっています。ラグビー一家で、ラグビーに囲まれて、僕は恵まれています。きょうは、パナソニックに行く権裕人(コン・ユイン)、NTTドコモに行く金勇輝(キム・ヨンヒ)も来てくれました。生徒にも恵まれて幸せです。このことを肝に銘じて、これからのラグビー人生を歩んでいこうと思います。ほんとうにありがとうございました】