2014年度の国内シーズンが終了し、4月からは日本代表シーズンが始まる。その前に、南半球3強国によるスーパーラグビーでの日本選手の活躍にも注目が集まる。今秋の第8回ラグビーワールドカップ、2016年リオデジャネイロ五輪の男女7人制ラグビーのアジア予選、そして2016年3月からは、いよいよ日本チームのスーパーラグビー参戦が現実のものとなる。いま、日本ラグビーはかつてない変化の時代を進んでいる。これまでの常識では対応できないことも多いが、未来に何を残すべきなのか、大切なことは何かを見失わずに進みたい。
国内シーズンの掉尾を飾った第52回日本選手権は、ヤマハ発動機ジュビロの初優勝で幕を閉じた。就任4年目でチームを頂点に引き上げた清宮克幸監督の言葉で印象に残ったものがある。
「必然のトライが多い、それがヤマハスタイルです」
特にシーズン終盤のトライは、すべて練習してきた通りのトライだった。そのために理詰めのトライをとることを徹底してきたという。
「必然」という視点で見て行くと、清宮監督の就任と同時に、スクラムの専門家である長谷川慎FWコーチ、太田拓弥レスリングコーチをスタッフ入りさせたのも、先を見据えた英断だった。初年度にはスクラムの強化のためだけにフランスへ渡っている。ヤマハの強みをスクラムにするという明確な意思表示だった。当時の合宿に参加した選手で、今季のメンバーに残っている選手は少ないが、その意識の高さは引き継がれている。
注目すべきは、他のチームにはいない「レスリングコーチ」である。アトランタ五輪の銅メダリストであり、早稲田大学レスリング部のヘッドコーチである太田拓也さんは、初年度は月、火、水曜にヤマハの練習(静岡県磐田市)に出向き、今も月曜、火曜の朝にレスリングを指導している。太田さんに伺ったところでは、タックルしてすぐに起き上る効率の良い身のこなしや、相手の懐に身体を入れて行く動きなどは、モールに生きているのではないか、のことだった。
レスリングのトレーニングは厳しく、初年度は負傷者が続出したという。その後、修正され負傷者はなくなったようだが、ヤマハがどのチームと戦ってもコンタクトの局面で負けないのは、レスリングトレーニングの影響が大きいだろう。
そして、今年度からスタッフ入りしたのが、ボディビルの専門家(井野基知ストレングスコーチ)だ。この効果について三村勇飛丸キャプテンが説明してくれた。
「筋肉に詳しいのです。持つ角度を変えて、ここは薬指と小指を意識してなど細かい。身体が劇的に大きくなったようには見えないかもしれませんが、怪我をしない身体になりました。トレーニングでも、姿勢、可動域などを重視しています。怪我をしていても、『かついで痛いのなら、痛くない重みで倍の回数やれ』と言われるし休めない。僕の場合、例年はシーズン前に体重を増やし、シーズンが深まると体重が減っていたのですが、今年はキープできました」
また、筋肉に負荷をかけて回復させるサイクルを繰り返すため、試合のダメージからの回復力も高まったという。格闘球技とも言われるラグビーの「格闘」の部分を専門的に強化し、その4年の間に、球技の部分でも、ワイドにボールを動かすようになった。清宮監督から、トライまでの道筋が明確に示されているので、複数の選択肢の中から、各選手が最適なものを判断するようになってきたようだ。
そして、今季の転機は、2014年12月21日の神戸製鋼コベルコスティーラーズ戦での大敗(10-40)だった。このショックは大きく、全員がミーティングで話し合い、やるべきことが絞り込まれていった。三村キャテンは言う。
「4年間、負けて学ぶ積み重ねでした。今年一年だけで何かが変わったわけではありません」
ラグビーに適した肉体を作り、負けの要因を的確に修正し、これをくり返す。必然の日本選手権優勝だったということだ。
ただし、トップリーグ王者のパナソニックワイルドナイツは、日本選手権では怪我の堀江翔太キャプテン、スーパーラグビー参戦の田中史朗、山田章仁というキーマンが抜けていた。三村キャプテンもそれは感じている。「うちで言えば、マレ・サウと五郎丸さんが抜けているようなものでしょう? だから、来年はトップリーグで優勝したい」
自他ともに認める真の日本一へ。ヤマハ発動機ジュビロがどんな準備を重ねて行くのは、そのプロセスが楽しみだ。