BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

フェアなセレクションとは?

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11月のマオリ・オールブラックス戦、欧州遠征に向かう日本代表メンバーが発表された。その顔触れを見て、少なくないファンの皆さんが残念に思ったことがある。9月の代表合宿に久しぶりに招集された山中亮平(神戸製鋼)の名前がなかったことだ。東海大仰星高校時代から、「天才」とうたわれ、よく伸びるキック、素早いロングパス、抜群の突破力でチームを高校日本一に導いた。早稲田大学でも活躍、将来が大いに期待されていたが、ドーピング違反による2年間の出場停止という試練が待っていた。
神戸製鋼では2年間、一般の社員として働いた。そして、昨年、山中はラグビーの現場に戻ってきた。出場機会は少なかったが、その表情は以前と少し違っていた。神戸製鋼コベルコスティーラーズの平尾誠二GMは言っていた。「彼にとってあの2年は良かったんじゃないかな。ラグビーができることへの感謝とか、いろいろ感じることができたと思う」。この春にはニュージーランドで武者修行。課題とされたコンタクトの弱さを克服。今季のトップリーグでは逞しいプレーを披露している。188㎝、93㎏のサイズは、BKとしてはインターナショナルクラスである。期待感が高まるのも当然なのだ。
しかし、エディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチは、11月の日本代表メンバーには選ばなかった。メンバー発表の数週間前にジョーンズHCにインタビューする機会があった。マオリ・オールブラックス戦のプログラムに掲載されるものだ。個人的な興味もあって山中を試合に出すかどうか聞いてみたのだが、ジョーンズHCは、こう答えた。
「彼は素晴らしい才能を持ったプレーヤーです。特に左足のキックは彼の最大の武器でしょう。しかし、私は11月の試合ではプレーさせないと思います。まだ、彼には日本代表として戦う十分な準備ができていない。もし試合に出たとしても、おそらく彼は自分のベストの力を発揮できない。それは、フェアなセレクションとは言えないと思うのです」

なるほど、納得である。日本代表に合流して間もない選手を試合に出し、その力を判断することはできない。日本代表のラグビーを理解し、テストマッチで戦える体を作り、十分な準備をしてこそ、その選手の最高のパフォーマンスを引き出すことができるというわけだ。かつて、国内リーグでいいプレーをしたことで日本代表に選出され、いきなりの代表戦で力を出せず、評価を下げてしまった選手は多数いる。選ぶ側にも、彼らの力を最大限に出させる準備は必要だし、責務はあるということだ。
ジョーンズHCはこう付け加えた。「山中には、もう少し筋肉をつけてほしい。ワールドカップに行けば、南アフリカ代表のスカルク・バーガーや、バッキース・ボタなど巨漢選手にタックルしなくてはいけないのです。しかし、これから一年間努力すれば、それだけの身体を作ることは可能でしょう」
山中が再度代表に招集されるチャンスはある。そしてそれは他の選手についても言えることだ。第8回ラグビーワールドカップは、2015年9月に開幕する。自分を信じて、あきらめず、成長を続けてもらいたい。
追記◎この原稿を書いた後、 10月20 日に山中亮平選手は日本代表メンバーに追加招集された。神戸製鋼のチームメイトであるクレイグ・ウィング選手の負傷のためだ。試合の出場機会があるかどうかは分からないが、このチャンスをつかんでもらいたいと願う。