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About Koichi Murakami

高校ラグビーの指導者は、最高に面白い

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トップリーグが開幕し、各地で面白い試合が繰り広げられているが、今回は高校ラグビーのことを書きたい。社会人、大学、高校、クラブなど、さまざまなカテゴリーの中で根強い人気があるのが「高校ラグビー」である。人気ドラマ、スクール☆ウォーズのモデルとなった、伏見工業対大阪工大高の決勝戦など全国大会でも数々の名勝負があり、それぞれに指導者と高校生たちの純粋な物語がある。僕も長らく高校ラグビーを見てきたが、大人になる直前の生徒たちが、「今を生きる」姿に感動させられてきた。もちろん、他のスポーツにも感動はあるし、それぞれに物語があるのは承知だが、ここは筆者がラグビーを専ら取材する立場ということで偏見をお許しいただきたい。
今から20年以上前の事だが、僕がラグビーマガジン編集部にいた頃、先輩編集者の森本優子さんが、「高校ラグビー部の監督は世の中で一番面白い職業」と言っていたのを思い出す。森本さんは、その話を元新日鉄釜石の森重隆さんから聞いたそうだ。「当時、森さんはどこの監督もしていなくて、その理由をそう説明していました。辞められなくなるから、やらないんだって」。その森さんは、後に母校・福岡高校の監督になり、会社を経営しながら指導を続け、就任16年目の2010年度初めてチームを全国大会に導いた。そして今も監督を続けている。
先日、昨季の高校王者・東海大仰星(大阪府枚方市)の湯浅大智監督(32歳)をゲストにトークライブを開催する機会があった。進行役として様々な話を聞かせてもらったのだが、湯浅監督もまた、高校ラグビーの監督という職業に魅入られた人だ。湯浅さんは、仰星の高校時代、キャプテンとして日本一になり(1999年度)、当時の土井崇司監督から「お前は先生になれ」と言われて、東海大学の体育学部に進学した。恩師はその生徒の指導者としてのポテンシャルを見抜いたわけだ。大学4年時の教育実習で「子供達の熱さに向き合える幸せ」を感じ、卒業後は母校の保健体育科の教諭となった。そして、昨春、土井さんから監督を引き継ぎ、そのシーズンに全国高校大会で優勝するという快挙を成し遂げた。
土井さんの時代からラグビーによる人間形成は東海大仰星のテーマだ。湯浅監督も伝統を引き継ぎ、中等部と高等部が一緒になった練習を続けている。「土井先生に学んだのは、高校生活3年の中で、人間の基盤作りを大切にするということです」。だからこそ、全部で160人ほどになる大所帯を分散させない。グラウンドはサッカー部と半面ずつで効率は悪い。「効率の悪いなかで工夫するのです。組織の中で、リーダーシップを発揮する生徒もいれば、目配り、心配りのできる子もいる。高校日本代表の子、高校からラグビーを始めた子、中学一年生の子などが混在するなかで、自分はどう生きるべきか、それを探し、考えてほしいのです」。

高校生が中学生を教え、教えられた子は数年後には教える立場になる。その中でさまざまな人間としての成長が見られる。「中学の時はリーダーだった生徒が、高校に上がると、他の中学からもたくさん生徒が来るので、いったん埋没します。でも、その中で苦労しながら最後にはリーダーになっていく。そういう姿を見ているのが楽しみなんです」
東海大仰星は、この秋、全国大会連覇に向けて大阪府予選に臨む。予選は3つのブロックに分かれて行われるのだが、東海大仰星のブロックには、常翔啓光学園、同志社香里など今季充実が伝えられる高校がいる。湯浅監督も大阪の予選では何度も悔しい負けを経験してきた。「大阪を勝ち抜くのがどれだけ難しいかは分かっています」。全国選抜大会を制した東福岡など強豪ひしめく全国の舞台に立つため、手綱を緩めることはできない。
湯浅監督は、高校3年生で初めて日本一になった時、観客席の応援団を見た。すると、友達ではないはずの中学の同級生が肩を組んで「ユアサ~!」と叫んでいた。日本一になるのは自分の力を証明するためじゃない。この姿を見るために日本一になったのだと感じた。その景色を生徒たちに見せてやりたい。見て、感じて、成長してもらいたいのだ。
きっと多くの指導者が同じ思いだろう。湯浅監督は、全国の高校が集う合宿で鹿児島のある高校が地下足袋を履いて練習しているところを見て感動した。「足の裏で地面をしっかりつかむように練習しているんです。全国には熱い指導者がいっぱいいますよ」。だからこそ、負けられない。これからも熱を発しつづけるのだ。
余談だが、僕の大学の同級生が徳島県で高校ラグビーの指導をしている。数年前、全国大会に出てきた時のことだが、彼は敗色濃厚の試合を見ながら笑っていた。どうして笑うのだろう。そう思って尋ねると、こう答えた。「あの選手が、あんなにいいプレーをするのを見たことがない。だから、嬉しくて、笑ってしまうんよ」。なるほど、多くの指導者が魅入られるわけである。