BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

プロ・ラグビー選手のセカンドキャリア

backBtn

日本におけるプロ・ラグビー選手のセカンドキャリア、と書いてもピンとこない人が多いかもしれない。日本の最高峰リーグである「ジャパンラグビートップリーグ」は、企業スポーツであり、各企業は選手と雇用契約を結ばなければいけない。しかし、この契約内容にもさまざまあって、主にラグビーをする契約社員が存在する。日本のラグビー界では、こうした選手を「プロ」と呼ぶ。プロ契約を結ぶ選手のほとんどは、現役を引退すると同時に退社し、新たな職場を探すことになる。
海外からやってくる有名外国人選手は別格として、日本のプロ選手の場合は野球やサッカーのような高い報酬が得られるわけではない。プロ契約を希望する理由は「いずれは家業を継ぐので」、「現役でプレーできるうちはラグビーに専念したい」などが多い。将来を考えて、正社員契約を希望する学生は多いし、日本人選手は原則「正社員」とするチームも多い。現在のトップリーグは、仕事とラグビーを両立する選手と、プロ選手が混在しているのだ。したがって、セカンドキャリアについては大きな問題になっていないように見えるのだが、実際にはプロ選手の多くが不安を抱えながらプレーしている。
元日本代表選手で、ヤマハ発動機ジュビロ、NTTドコモレッドハリケーンズでプレーした冨岡耕児さん(34歳)は、この問題に正面から取り組み始めた。立命館大学ラグビー部他のコーチ業の傍ら、ラグビー普及、選手のセカンドキャリア支援などを業務にした一般社団法人PRAS(プレミア・ラグビー・アソシエーション)を立ちあげた。そして、4月中旬、大阪市内でプロ・ラグビー選手向けのビジネスアカデミーとなる第1回『トミーズ・アカデミー』を開催した。
今回は関西のトップリーガーに声をかけ、NTTドコモレッドハリケーンズ、神戸製鋼コベルコスティーラーズ、近鉄ライナーズなどから10名の選手が参加した。基調講演では、野球の四国アイランドリーグplus「香川オリーブガイナーズ」の球団代表を務める堀込孝二さんが登場し、広くスポーツビジネスに関わった経験からプロアスリートのセカンドキャリアについて語った。内容は、野球、サッカー選手の具体例をあげつつ現実的なものだった。「プレーしながら引退後のことを考えることが必要」、「現役時代から他の業界の人とも会い、ネットワーク作りが大切」、「現役時代から、周囲の人は人間性を見ている」など、それぞれのテーマで的確にアドバイス。「皆さん、パソコンは使えますか? ワード、エクセル、パワーポイント、何もできなかったらその時点でどこも雇ってくれませんよ」など厳しい指摘もあった。

ただ、暗い話だけではなく、アイランドリーグの選手達に対してもセカンドキャリアのスポンサーは増えているのだという。体力があり、明るく仕事をこなす人材を求めている職種は多いということだ。一般企業の営業職が多いようだが、警察官の試験を受けてほしいという要請もあるという。ただ、営業職の場合はプロ選手としてファンにちやほやされた選手ほど頭を下げることができず、上手くいかないことも多い。現役時代から周囲と協調性があり、後輩の面倒見が良く、チームプレーに徹することができるような選手はセカンドキャリアでも活躍するそうだ。
そんな話を真剣に聞いていたプロ・ラグビー選手たちは、現実の厳しさを改めて思い知らされていたようだが、「3年後に引退するつもりなので、今から準備を始めたい」、「スポーツ全般に関わりたいので、トレーナーの資格をとりたい」など前向きなコメントが多かった。実際、少なくないプロ選手がトレーニングの合間を縫って学校に通い、教員免許など資格を取得している。一方で、「最近はメンバーに入れず、コーチが変わることによって、こんなに人生が変わるのだと感じた」と自分の意志とは関係なく引退を考えなければならない立場を語った選手もいた。
冨岡耕児さんは言う。「セカンドキャリアの現実は厳しく、僕自身がそれを痛感してきました。プロスポーツ選手は社会を知る環境が限られています。どうすれば社会で求められる人間になるのか、気づいていない選手も多い。セカンドキャリアへスムーズに移行する準備ができるように、サポートし、アドバイスをしていきたいと思っています」
次回のトミーズ・アカデミーは、東京での開催を検討中だという。