BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

日本選手権の大差試合から思うこと

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現在開催中の日本選手権について思うところを書きたい。第51回を迎えた日本選手権は、1回戦で慶應義塾大学が神戸製鋼コベルコスティーラーズに0-100という大敗を喫した。100点ゲームというのは、世界のラグビーでは「ミスマッチ」と言われ、安全面を考えて組むべきではない試合だ。昨季の日本選手権でクラブ王者・六甲クラブが、5-115という大敗を喫し、かねてより実力不足が懸念されていたクラブの枠が消滅した。代わって、大学の出場枠をベスト4まで拡大したことが今回の100点ゲームを招いた。大学王者にアドバンテージを与えるため、大学の下位がトップリーグの上位と当たる組み合わせになったからである。
神戸製鋼FWのサイズは、平均身長187㎝、体重109㎏。対する慶應は、178㎝、92㎏である。この対戦は慶應には酷だった。私はトップリーグと大学のマッチメークは必要がないと考える。大学が最後に社会人王者に勝ったのは、1987年の早稲田大学が最後(対東芝府中)だ。1995年の日本選手権で大学日本一の大東文化大学を社会人王者の神戸製鋼が102-4で下した時に社会人、大学の一騎打ちは日本一決定戦としての意味を完全に失った。ようやく改革に手がつけられたのは1998年の第35回大会から。以降は複数参加によるトーナメントの存続を模索して今日に至っている。
1995年、ラグビーがアマチュア競技からプロも容認するオープン競技となってからは世界各地にプロリーグが発足し、トップ選手のレベルは格段に上がった。2003年に始まったトップリーグにも世界一流のプロ選手、プロコーチが加入し、企業スポーツの形態を残しつつ強化はプロフェッショナルに行われている。現在の大学チームで強化環境がトップリーグに匹敵するのは帝京大学だけだ。ちなみに今大会1回戦で対戦したトヨタ自動車と帝京大学FWの体重差は3㎏。体格的な差は僅かだった。いずれにしても、帝京以外のチームがトップリーグの上位と戦うのは無理があるのが現実だ。

トップリーグと大学が戦うことで、さまざまな工夫が生まれ、日本代表が世界と戦うヒントが得られるという意見もある。この側面は否定できないが、U20日本代表など若い世代の代表チームが世界の同世代と戦う機会を増やすほうが収穫は多いだろう。各大学には学業と両立し大学で本格的なプレーから身を引く選手も多い。大学ラグビーは大学で完結し、さらに上を目指す選手は世界を見据えて育てるべきだ。その代り、大学ラグビーには先進的なルールの実験など、大学ラグビーならではの研究をしてほしい。
日本選手権の改革は単体で考えてはいけない。日本ラグビーの将来像を描いて年間スケジュールを見直すべきだろう。2019年には日本開催のワールドカップが控えている。日本代表強化を最優先に考えるのであれば、国内シーズンは、1月末で終え、2月以降は代表チームのシーズンとすべきだ。例年、日本代表は4月から始動するが、2月はコンディション調整をして、3月からじっくりチーム作りをする。ジュニア・ジャパンは、今年も3月からパシフィックラグビーカップに参加した。このチーム作りもしやすくなるし、個々の選手が2月からスーパーラグビーに挑戦するにも都合がいい。もっと言えば、将来、日本が選抜チームを編成してスーパーラグビーに参戦することも可能になる。
これは、大学レベル以上の話だが、国内チーム同士の15人制の試合は、9月~1月と決める(11月は日本代表のテストマッチ期間)。2月~6月は7人制の大会を増やし、各種代表チームが活動。その他の選手の試合を増やすために地域リーグなどの交流試合は別で考える。7、8月はシーズンに向けての準備期間。そう割り切ったとき、日本選手権をどこに入れるかが難しくなる。現実的には、トップリーグの「プレーオフ」を日本選手権にする方法が手っ取り早いが、参加枠を大幅に拡大し、9月から1月まで、シーズンを通して行う方法もある。大事なのは日本選手権の廃止もいとわない、日本ラグビーの未来を見据えた改革である。今度こそ日本選手権ありきの微修正で終わらせず、長く続くシステムの構築が必要なのだ。