年末年始、東大阪市の近鉄花園ラグビー場で開催された第93回全国高等学校ラグビーフットボール大会は、東海大仰星高校の7年ぶり3度目の優勝で幕を閉じた。桐蔭学園との決勝戦は、研ぎ澄まされた集中力が支配する攻防で見応えがあった。今季より監督に就任した湯浅大智さんは、第79回大会(1999年度)はキャプテンとして、第86回大会(2006年度)はコーチ、そして、今回は監督として日本一を経験したことになる。「優勝して僕の人生は変わりました。選手として優勝したとき、バックスタンドが波打っていた。それを見て涙が出た。それまで知り合いではなかった僕の友達同士が抱き合っていた。感動しました。僕はただチャンピオンになってほしいのではなく、そういう感動を味わってほしかったのです」
湯浅監督にバトンを渡し、陣頭指揮からは一歩引いた土井崇司総監督は強豪チームになる基礎を作り上げた人だ。土井さんは、会心の笑顔でこの優勝を喜んでいた。教え子たちの成長はもちろんだが、スペースを作り、スペースを突くという、土井さんの理想のラグビーを選手が見事に体現してくれたことが喜びを倍増させたのだ。長年培ってきた「スペース感覚」について土井さんが称賛したシーンがある。後半5分、自陣22mライン右中間のスクラムでの攻撃である。
8割方ボールを支配され、チャンスはなかなかめぐって来なかった。この時のスクラムでは、相手FW8人がまずスクラムに入っている。そして、右のショートサイドには、相手WTBがキックに備えて少し下がり目のポジショニングをしていた。ここを攻めればゲイン(前進)は間違いなくできる。このチャンスを逃す手はない。
仰星はSH米村が右サイドのボールを持ち出し、WTB小原を走らせた。ここでの小原の判断がその後の大幅ゲインを生む。WTBとしてはそのまま右タッチライン際を大きくゲインして相手WTBと勝負したくなる。しかし、小原はある程度ゲインしたところで、左内側へコースを変えた。反応のいい桐蔭のFW第三列(6番、7番、8番)が素早く戻って小原を囲む。下げられたブレイクダウン(ボール争奪局面)を優位に戦うため、両LO(4番、5番)も戻ってきた。つまり、小原はコース取りを少し変えることで桐蔭FWを一身に引き付けたのだ。
すかさず仰星は左にボールを動かして、FL野中が手薄になったディフェンス網を破り、このブレイクダウンからも素早くボールを左に展開する。桐蔭ディフェンスは人数が足りなくなり、仰星CTB山田一輝が相手陣深く侵入した。桐蔭もよく止めたが一連の攻撃で仰星がトライラインを越えた。小原が相手WTBに捕まっていれば、このトライは生まれなかったかもしれない。各個人の動きが、その後のスペースにどんな影響を与えるか。それを考え抜いてきた東海大仰星らしい攻撃だった。大型FWが体を張ってタックルし、全員が卓越したスペース感覚を持って動き続ける。頂点に立つチームに相応しい戦いぶりだった。