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About Koichi Murakami

世界トップクラスのコーチとは

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「世界トップクラスのコーチになりたい」。そう夢を語った30歳のラグビーマンの言葉に虚を突かれた。トップクラスのコーチといえば強いチームの指導者、というイメージがある。だが、彼の考えは違っていた。
2013年7月12日、日本ラグビーフットボール協会は、国際協力機構(JICA)と連携して行う「JICA-JRFUスクラムプロジェクト」の設立を発表した。日本協会は、これまでにもアジアの国同士の協力体制構築を目指す「アジアンスクラムプロジェクト」に取り組んできた。ラグビーワールドカップ2019の開催国として、「アジアのためのワールドカップ」を実現するためだ。すでに、インド、スリランカ、インドネシア、マレーシアなどに日本人指導者を送っている。アジアのラグビー人にとって、日本ラグビーは目標であり、憧れだ。身近なヒーローと言ってもいい。派遣を求める国は多い。
今回発表されたプロジェクトは、JICAの支援を受けることで費用負担が楽になるほか、現地の詳細な情報が得られることで指導者の安全面も確保され、行動範囲も広がることになる。7月12日には、両組織の連携合意の署名式が行われたが、これに先立ち、今年の3月から6月までJICAの青年海外協力隊員として、スリランカ、ラオスでラグビー指導を行った3名が活動報告を行った。その中の一人、白馬悠さんはラグビーの強豪校である茗溪学園(茨城県)高校出身で、アメリカの大学に留学し、昨年はニュージーランドのノースハーバーに行って、4カ月間のコーチ修行。その後は、日本協会のリソースコーチとして活動していた。
今回の派遣では、スリランカの山岳地帯のバドゥッラという地域に入り、いくつかの町を巡回して中高生への普及活動をした。白馬さんは、今回の派遣に応募した理由を明快に語った。「私には世界トップクラスのコーチになるという夢があります。なぜ世界トップレベルのコーチを目指すかといえば、日本協会コーチング・ディレクターの中竹竜二さんの著書に、『2019年、日本開催のラグビーワールドカップまでに世界トップクラスのコーチを100名養成したい』という旨の記述があったからです。私は、そのトップランナーになりたいと思ったのです」

白馬さんの今回の役割はラグビーの普及だった。「大切なことは、私が帰国した後、彼らが自立してラグビーに取り組む環境を作ることでした。選手や指導者のモチベーションを高め、私がいなくなってから先の活動につながるよう全力を尽くしました」。白馬さんは、ラグビー外の役目で派遣された青年海外協力隊員から、「世界トップクラスのコーチとは何ができるのか」という質問を受けたとき、こう答えたそうだ。「トップクラスのコーチは、世界のどこに行っても、練習の最初と終わりで選手に上手くなったと実感させることができる。言葉が通じなくても、どんな文化の中でも周囲の人間を巻き込み、選手のやる気を引き出し、最終的には楽しく、上手くなれたと実感させるコーチだと思います」
その通りだと思う。そのためには、コミュニケーション能力を高め、ラグビー指導のノウハウをたくさん持たなくてはいけない。白馬さんにとって、スリランカでの3カ月は貴重な経験になっただろう。強豪チームのコーチをしていなくても、志高く、どこに行っても成果をあげられるコーチになろうとする姿勢が頼もしい。プレーヤーも海外に出るべきだが、コーチも思い切って海外に出て、経験を積んでほしいと思う。今後、「JICA-JRFUスクラムプロジェクト」は、トップクラスのコーチを目指す人たちに絶好の機会を与えるだろう。参加志願のコーチが増えることを祈りたい。