BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

日本ラグビーに油断は禁物

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前回のコラムがアップされたのは5月23日だった。2日後から始まるパシフィックネーションズカップ(PNC)と、ウェールズ代表戦の計6試合で、エディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチのプロフェッショナルの仕事をじっくり見たい、と書いた。
6試合の戦績は、3勝3敗。6月8日(近鉄花園ラグビー場)、15日(秩父宮ラグビー場)のウェールズ代表戦は、2万人を超える満員の観客が集い、15日には23-8というスコアで日本が勝利。日本ラグビーの歴史上、格上の国代表に勝ったのは、1989年のスコットランド戦しかなく、これに続く歴史的快挙だった。その後、8日間に3試合というタフな日程にもかかわらず、カナダ代表(6月19日)、アメリカ代表(6月23日)に勝利したことは、フィジカル面を継続強化した成果であり、高く評価されていい。
6連戦での大きなテーマの一つだったスクラム、ラインアウトも試合を重ねるごとに改善され、ウェールズ戦、カナダ戦ではピンチの相手ボールスクラムを奪い、アメリカ戦ではゴール前のスクラムを押し込んでペナルティトライを奪ってみせた。SO立川理道、CTBクレイグ・ウィング、マレ・サウを軸にしたディフェンスも安定感を増し、スーパーラグビーでプレーするSH田中史朗は強気のゲームリードでチームの勢いを引き出した。海外のトップクラブでプレーすることが、いかに選手の能力を伸ばすかを証明した点は見逃せない。海外に出ようとする若者は増えるだろう。攻撃面も粘り強くなった。カナダ戦の勝利を決めたトライも、18次という連続攻撃で、雨の悪コンディションのなかミスせずボールをつなぐ質の高いものだった。この他、成果はいくつも挙げられる。
アメリカ戦を勝利で終えたあと、ジョーンズHCは次のように語った。「総合的に良かったと思います。ただし、トンガ戦は良くありませんでした。フィジー戦も含めて、この2試合については、戦術を選手達にクリアに伝えられなかった私の責任です」。その言葉通り、トンガ戦は、スクラム、ラインアウトが安定していたにもかかわらず、試合運びが単調で、とても勝つために臨んでいるとは思えなかった。プロのコーチとして、敗戦の責任を感じて当然だろう。PNCも優勝の目標はかなわなかったのだから。

世界ランキングで日本より下位なのはアメリカだけだったことを考えれば、悪くない成績である。過去の日本代表を振り返っても、これほど頼もしく感じるチームは見当たらない。ただし、ウェールズは若手中心だったし、トンガ、フィジーはヨーロッパの強豪クラブで活躍する選手は不在だった。この春は、肉体改造(筋量アップ)と、セットプレーのレベルアップに主眼が置かれていたこともあり、戦術の細かいところまではまだ手がついていない状態だが、それでも、2015年で世界トップ10の目標を掲げているのだから、メンバー落ちのチームにはすべて勝つべきだった。レベルアップは確かだが、ほんの少しでも気を緩めれば、メンバー落ちのトンガ、フィジーに負けてしまう現実は直視しなくてはいけない。今後も、一戦一戦、丁寧に戦って白星を重ねる他はないし、強化を加速させなければ、2015年に目標に届かないことになってしまう。だから、3勝3敗はけっして褒められる結果ではなかった。
最後に書いておきたいのは、集客のことだ。ウェールズ戦については、ラグビー界一丸となっての努力もあって、競技者が多数詰めかけ、2試合とも2万人超の観客が集まった。その声援が選手を後押ししたのは確かだった。しかし、最後のアメリカ戦(秩父宮ラグビー場)の観衆は一万にも満たなかった。これも現実。集客についても少しでも気を抜けば、とたんに空席が目立つことも忘れてはいけない。2019年の日本開催のワールドカップを念頭において、集客面でも気を緩めず進みたい。