BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

ラガーはラグビー選手にあらず

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サントリーサンゴリアスが日本選手権三連覇を達成し、2012年度の国内ラグビーシーズンは幕を閉じた。試合後の記者会見で、大久保直弥監督は言った。「去年のチームを越えようと一人一人が努力してきました。試合に出ないメンバー11人が、昨日のウエートトレーニングで新記録を出しました」。つまり、チームが一丸となって昨年よりレベルアップをしようとし、最後の試合の前日まで努力を続けたことが、三連覇につながったということだ。サントリーの強さの理由が集約されている話だと感じた。
さて、この一年もラグビーについて、さまざまに書き、話してきた。幸せな仕事だと感じて日々を過ごしている。いつも思うのだが、ラグビーというのは、いろいろと説明しなければいけないことが多い。たとえば、スーパーラグビーでデビューした田中史朗、堀江翔太両選手の快挙を語るとき、スーパーラグビーが何か、それがラグビーの中でどれほど価値があることなのかを説明しようとすると、プロフェッショナル・ラグビーの成り立ち、日本の選手のプロとアマの比率など説明することが、どうしても多くなる。日本の「プロ野球」とか、サッカー「Jリーグ」といえば、それほど説明をしないで済む。多くの国民が共通して持っているイメージがある競技になっていないと痛感する。
誤った解釈、エピソードもいまだにそのまま語られていることが多い。代表的なものでは、ラグビー発祥のエピソードである。「サッカーの試合中にエリス少年がボールを持って駆け出した」。これは間違い。

このエピソードの1823年当時、サッカーは生まれていない。原文では「フットボールの試合中に」ということになっており、この「フットボール」は、ボールを手で扱っていい競技だった。ボールを持って走ってはいけなかっただけなのだ。だから、正確にはサッカーとラグビーは原始的フットボールから枝分かれしたスポーツとなる。
そして、もう一つ。あまりに一般化されてしまったので何度も誤りを指摘するのが申し訳なってくるのが、「ラガー」という言葉。多くの人がラグビー選手を指す言葉だと思っているのだが、ラガーはラグビーというスポーツそのものを表す。「アソシエーション・フットボール」を「サッカー」と略すのと同じで、「ラグビー・フットボール」の短縮形が、「ラガー」なのである。ラグビー選手を表す言葉としては日本では「ラガーマン」がよく知られているが、これも海外では使われない。専門誌のラグビーマガジンは、数年前からラガーマンは使わず、「ラグビーマン」としている。女子は今のところ、「女子ラグビー選手」としているのがほとんどだが、メディアによってさまざま。最近は、「ラガール」なる造語も生まれている。これは新しく作った言葉だからいいと思うのだが、ラガーは古くからある言葉なので、特にラグビー関係者は誤用を改めるべきだろう。
昭和5年、初代日本代表監督の香山蕃さんが著した「ラグビー・フットボール」には、「ラガー・プレイヤー」という表現が出てくる。試合のことは、「ラガー・マッチ」、ラグビー精神のことは「ラガー・スピリット」と表現している。これがラガーの正しい使い方なのである。みなさんも、誤用を見つけたら、ぜひ、やんわりと訂正することをお願いしたい。