10年目のトップリーグは本稿締切り時点で第7節を終了し、サントリーサンゴリアスが7戦全勝で首位を走っている。10月20日(土)には、ライバルであるパナソニックワイルドナイツに快勝し、その攻撃力とフィットネスレベルの高さを見せつけた。もっとも勝利に貢献した選手に贈られる「マン・オブ・ザ・マッチ」はFLジョージ・スミスが受賞した。
ジョージ・スミスは、オーストラリア代表で110キャップを誇る。180㎝、104㎏と、日本でも大きい部類には入らないサイズで、現在でも世界最高のFLの一人とされている。相手からボールを奪う技術が世界の一流選手の中でも卓越しているのだ。低い姿勢で素早く相手ボールに絡み、すぐに次の攻撃につなげるだけでなく、ピンチを未然に察知して誰よりも早く目的地に到達する。チームメイトの佐々木隆道がこんなことを言っていた。「背後にキックを蹴られて、あっと思って振り返ると、ジョージはもうずっと先を走っている。走り出しが全然違います」。
近年、トップリーグには、海外の一流選手が大挙来日している。高額のサラリーのわりに、試合数が少ないのがその一因だが、シーズンが短く、他国のリーグと掛け持ちできる点もプロ選手にとっては魅力のようだ。ただし、しっかり日本に腰を落ち着けてプレーしている選手も存在する。その質の高いプレーで眼福を得られる選手も多い。
スミスと同じサントリーのSHフーリー・デュプレアも、ゲームを読む力と正確なパス、キックで「世界一のSH」と言われている。南アフリカ代表で2007年ワールドカップを制し、62キャップを持つのだから当然かもしれないが、日本でプレーする現在でも世界的評価は衰えない。サントリーの広報担当を務める田中澄憲さんは、明治大、サントリーで活躍した名SHだが、「ものすごく捕りやすいボールです」とデュプレアのパスの質を語る。キャッチする選手が差し出した手にぴったり収まるように、ボールが縦に立ったまま、柔らかな回転で飛んでくるというのだ。サントリー所属の日本代表SH日和佐篤はデュプレアとレギュラー争いをしながら多くを学んでいる。「フーリーは、パスのモーションが距離に関係なく同じなんです」。ディフェンス側としては誰に投げようとしているのか分からない。その上、防御背後へのキックも絶妙のコントロールを誇り、自らボールを持って突破もしてくる。これほどやっかいな選手はいない。
そのデュプレアが、「日和佐が成長して試合に出るのであれば嬉しいことです。若い選手を成長させることも私の役目ですから」と話していた。来日する一流選手の多くが同様の言葉を口にする。数々の経験を後進に伝えるのは、トップ選手の義務だと自覚しているからだ。そんな言葉を聞くたび、「ノブレスオブリージュ」という仏語を思い出す。位高き者には、それなりの義務が伴う、という意味がある。もちろん、日本のトップ選手もその役割はわきまえている。トップリーグ初の100試合出場を達成した中居智昭(東芝)は言った。「僕の役目は、100試合の経験を伝えていくことです。僕が手探りでやってきたことを伝えれば、今後の選手はもっと質の高い100試合ができると思うので」。
今夏、北海道で夏合宿中のジョージ・スミスが、スポーツ専門局・JSPORTSの取材に応じ、今季の目標について、スケッチブックにこんな言葉を書いていた。
Pass on rugby knowledge to fellow rugby players within Japan.
「ラグビーの知識を日本のラグビー選手仲間に伝えていく」
嬉しいコメントではないか。若い選手達は、彼らからたくさんのことを吸収し、それをまた後輩たちに伝えてほしいと思う。