ラグビートップリーグ2012-2013シーズンは8月31日に開幕、9月23日までに4節を終了し、王者サントリーが首位。優勝候補の一角であるパナソニックワイルドナイツは、2勝2敗で5位と出遅れた。ただし、その注目度は試合を重ねるごとに高まっている。世界屈指のインサイドCTBソニービル・ウィリアムズ(27歳)がいるからだ。
現役オールブラックスにして、ヘビー級プロボクサーとしてもニュージーランド王者であり、東洋太平洋1位にランクされる。191㎝、108㎏の均整のとれた体格に端正な顔立ちと優しい笑顔。加えて、タックルを受けながら右手一本で全方向に繰り出す「オフロードパス」には華があり、子供たちからも絶大な支持を得る。いま世界のラグビー界で最も注目される選手の一人である。
「ソニービル・ウィリアムズ」。当人によれば、「サニー」と発音し、愛称は「エスビー(SB)」。文字にするときは名前を「SBW」と略す。9月22日、パナソニック対東芝戦は、SBの秩父宮ラグビー場デビューという話題も手伝って、1万2千人を越える観客が詰めかけた。パナソニックは敗れたが、フィールド片隅で整理運動をするSBを一目見ようと、大勢の観客が足を止め通路は人であふれた。オフロードパスを連発して味方を走らせた活躍によって、SB見たさのラグビーファンはさらに増えると見込まれる。
同日午後2時から、ラグビー場正面の向かい側にある都立青山高校で認定NPO法人ロシナンテス主催のトークイベントが開催された。ロシナンテスは、スーダンで医療活動を続ける川原尚行医師が理事長を務め、川原医師の母校・福岡県立小倉高校ラグビー部の後輩達が支えるNPO法人である。ロシナンテスの支持者にはラグビーの面白さを理解してもらい、ラグビーファンには川原さんの活動を理解してもらう。そんな趣旨のイベントは、約200名のお客さんを集め、大成功を収めた。
外務省の医務官を辞し、目の前で苦しんでいる人を救う人生を歩み始めた川原さんは、医療のみならず、給水所、学校の設立、スポーツ普及など多岐にわたる事業を行っている。昨夏は、スーダンの子供たちを宮城県に招き、被災地の子供たちとの運動会を企画した。内戦により国が疲弊した上、南スーダンの独立によって国が南北に分断される。分断前に、南北の子供たちを日本に招き、被災地の子供たちと交流してほしい。彼らが明るい未来を創造してくれると信じての企画である。青山高校の視聴覚教室に運動会の映像が流れると、感動の輪が広がった。子供達の笑顔は人の心を揺さぶる何かを持っている。川原さんのイメージを多くの人が支え具現化した温かい運動会だった。
青山高校でのイベントも、15名のボランティアスタッフとロシナンテスのスタッフが支えた。僕は進行役を務めたのだが、ロシナンテスの事務局長を務める海原六郎さんに、なぜ川原さんのサポートを始めたのか問いかけてみた。海原さんは、小倉高校ラグビー部で川原さんの2学年下になる。「僕が高校1年生のとき、川原さんはキャプテンで、チームは全国高校大会に出場できるくらい強かった。ところが予選の前に主力のスクラムハーフの人が出場できなくなった。それで1年生の僕が急きょ出場することになったのです。へたくそで何もできなかった。川原さんたちは、3年間厳しい練習をしてきて、きっと悔しかったろうに、お前のせいで負けたんじゃないって言ってくれた。本当に申し訳なかった。いつかお返しをしなくてはいけないと思っていました。だから、川原さんがスーダンに行くって聞いたとき、すぐに手を挙げたのです」
パナソニック対東芝戦後、SBは大勢の報道陣に囲まれた。オフロードパスを称賛する趣旨の質問が出ると、SBは答えた。「オフロードパスは、サポートをする選手がいてこそ成功します。いい位置でサポートしてくれた選手こそ評価されるべきでしょう」。川原さんを支える人たちと、SBの言葉が重なった。