2012 年になって、早く書かなければ思っているうちにもう2月である。昔、京都の祖母に「1月は行く、2月は逃げる、3月は去る、言うてなぁ」なんて、教えてもらったことがあった。まったく、このままではあっというまに2013年である。
前回は昨年の 12 月初旬に書いた。「日本一をかけた攻防の中に、観客がしびれるような駆け引き、緩急ある攻防が見たい。そして、チャンスと見るや素早くトライを獲り切るシーンがたくさん生まれてほしい。それが多くのラグビーファンを惹きつけ、観客席が埋まるきっかけになるはずだ」と書いたら、大学選手権で天理大学がやってくれた。三連覇を狙う帝京大学の鉄壁のディフェンスを、SO 立川理道、CTBトニシオ・バイフ、WTB 木村和也らがやすやすと破っていく。結局敗れたが、その戦いぶりはラグビーというボールゲームの楽しさを存分に披露するものだった。
しかも、それを実現したのは、体格が小さく、大都市の有名私立校に比べれば潤沢な人材確保が難しい天理だった。多くの指導者が勇気をもらったはずだ。いや、勇気をもらって奮い立ってもらわないと困る。なぜ天理がよく抜けるのかについては、スポーツ雑誌ナンバーの796号に書いたのでここでは詳述しないが、端的に書けば、小松節夫監督がタックラーをかわすコツを教えているからである。
たとえば、スタンドオフが密集戦の背後で右から左、あるいはその逆に攻撃方向を変えて走り込むプレーがある。これをただ斜めに走り込めば、相手からは見え見えだ。それより、密集の背後に歩み寄り、急にどちらかの方向に走りだせば、ディフェンダーはついてこられない。
そうしてディフェンスラインに穴を作り、次の選手がスピードをつけて走り込む。そうしたコツを繰り返し教え込み、ラインを構成しているから天理のBKはよく抜けるのだ。実は個人技だけではないのである。「工夫すれば誰だってやれますよ」。天理大の立川キャプテンの言葉は心強い。全国のコーチ、選手の皆さんには、今いる人材をフル活用しての戦いで活路を開いてほしいと切に願う。
帝京大と天理大は、2月25日から開幕する日本選手権に出場する。帝京大はクラブ王者の六甲ファイティングブルと対戦。天理大は来季からトップリーグ昇格を決めたキヤノンイーグルスと戦う。三連覇を達成した帝京大には、勝たなければならないプレッシャーから解放されての思いきりのいい攻撃を見せてもらいたい。
トップリーグは、2 月19日からトップ4によるプレーオフトーナメントが始まる。リーグ終盤に来て調子をあげるのは東芝だ。今季のトップリーグは、サントリー、近鉄、福岡サニックスを代表格に派手にボールを動かして攻めるチームが多く、見て楽しいゲームが多い。その中では東芝のボールの動かし方がもっとも泥臭く、力強い。ボールキャリアがガツガツと相手にぶち当たりながら前進する攻撃は迫力満点だ。
第11節(1月22日)には、全勝のサントリーに黒星をつけたのだが、試合終盤の疲れている時間に、我先にとボールを持って前進する選手たちに胸を打たれた。足には乳酸がたまり、へとへとだったはずなのに、倒された選手がすぐに起き上がって走り出す。そんな肉弾戦もまたラグビーの醍醐味である。サントリー、東芝、パナソニックの実力は拮抗しており、4位のNECも3強を倒す力を秘める。この4チームの優勝争いでも、それぞれの工夫を見たいものだ。
海の向こうでは、北半球実力最高峰の選手権「シックスネーションズ」が開幕した。昨秋のワールドカップ以降、強豪国が集う初のインターナショナルマッチだ。2011年の世界最優秀選手のティエリ・デュソトワール(フランス代表 FL )はじめ、W杯で活躍したスター選手が多数いる。JSPORTSで放送されているので、ぜひご覧いただきたい。超満員のスタジアムを見ると羨ましくもあるが、その試合内容、観客の反応から学ぶべきところは山のようにある。それについては、次回のコラムで触れたい。