BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

06th 苦しさを乗り越える美学

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ある雑誌の取材で関東学院大学の春口廣監督とゆっくり話せる時間があった。今年で同大学の監督生活30周年。部員8人の時代から着実に実績を積み上げ、いまや7年連続で大学選手権決勝に進出する強豪に育て上げた名伯楽の言葉は説得力があった。
ラグビーの魅力についての言葉で特に印象的だったものがある。「ラグビーっていうのは、3Kスポーツ(きつい、汚い、危険)と言われるけど、そこに誇りを持つべきだよ」。甘えた考えでプレーすれば怪我をする。危険だからこそ、厳しい練習をし、真剣に戦う。真剣だからこそ、仲間との連帯感、相手チームへの尊敬が生まれる。今の世の中、真剣勝負の身体のぶつかり合いなんて、スポーツの中にしかないじゃないか。そういう体験を一人でも多くの子供達にしてほしい。ラグビーっていいスポーツなんだよ。そんな気持ちが伝わって、聞いていて嬉しくなってきた。
監督はサイン色紙を頼まれると、「楽しく、美しく」と書く。「楽美」。つまりラグビー。ラグビー少年だった私が先輩方から教えてもらったのは、楽しさと苦しさを備えたスポーツ「楽苦備」だった。
春口さんは一歩進んで、苦しいことを乗り越えるのもラグビー選手の美学だと説く。

ふと、1914年にロンドンの新聞に掲載されたという南極探検隊員の求人広告のことが浮かんだ。「何が起こるか分からない冒険旅行に、男子求む。少額の給与。厳しい寒さ、長期の暗闇、常に迫る危険。生還は疑問。成功時には、人々の評価と名誉あり」。
応募者は殺到した。イギリス人気質をあらわすエピソードである。ラグビーもイギリスで生まれた。苦しさを乗り越える美学は、そんなところから来ているのだろう。

この求人広告は、ラグビー部員の募集にも、ほぼそのまま使える。きつくて、危険かもしれないが、その向こうに大きな喜びと、名誉がある。そして、自分自身に芽生える誇りを感じたとき、みんなラグビーから離れられなくなる。だから、ラグビーやろうよ。

ラグビージャーナリストとして、もっともっとこのスポーツの魅力を分かりやすく伝えていきたい。久しぶりに襟をただすことができた。春口先生、ありがとうございました。