前回のコラムは3月9日付けになっている。2日後の3月11日、東日本大震災が起きた。あれから、激動の2カ月が過ぎた。ラグビー界でも数試合が中止になり、海外チームの来日もキャンセルになった。チャリティイベントも次々に行われた。4月17日には、秩父宮ラグビー場の駐車場に約3000人のファンが集結した他、津波の被害が大きかった岩手県釜石市にあるクラブチーム「釜石シーウェイブス」をサポートする「スクラム釜石」なる団体が立ち上げられるなど支援の輪も広がった。これらの動きは、選手、メディア、ラグビー協会関係者など含め、ラグビーを愛する人たちがともに力を合わせての動きで、日本ラグビー史のなかでも画期的な運動だと言えるだろう。そんな気持ちの結集が、6月26日、秩父宮ラグビー場での「日本代表対トップリーグ選抜」のチャリティマッチを実現させた。
東日本大震災についてのラグビー界の動きについては、多くのメデイアで報道されているので、今回はゴールデンウィークに福岡県宗像市のグローバルアリーナで行われた単独高校チームの世界大会「ワールドラグビーユース交流会」で感じたことについて書きたい。今大会は、「今こそ、一人はみんなのために、みんなは一人のために」というスローガンが掲げられた。東日本大震災、ニュージーランドでの震災の被災者を支援する気持ちを表すためである。メインスタンドには、大会期間を通して、犠牲者への哀悼の意をあらわす半旗が翻った。
例年、海外8チームが参加するのだが、今回は原発事故の影響でキャンセルが相次ぎ、最終的には海外4チーム、国内12チームでの開催となった。参加した南アフリカのパールボーイズ高校のコーチに来日を決めた理由を聞いてみた。「日本に来ることが南アフリカの人々の支援の気持ちを表すと思ったのです。日本は大丈夫だと帰国して伝えます」。ラグビー仲間の熱い気持ちに感謝である。
大会は、16チームを4チームずつに分けた一次リーグを経て順位決定戦となり、ニュージーランドのハミルトンボーイズ高校が連覇を達成。
イングランドのアイヴィーブリッジコミュニティカレッジがこれに続いた。国内チームでは、桐蔭学園(神奈川)が唯一ベスト4に残ったが、実力的に見てみると、やはり東福岡が頭一つ抜けた存在。これを桐蔭学園、佐賀工業が追う。今大会では負傷者が多かったチームもあり、大阪の常翔学園、京都成章、國學院栃木らも含め東福岡以外の実力は紙一重。今季の高校ラグビーはどこが勝ち上がっても不思議はない印象を受けた。
大会を通して、プレーの真面目さという点で際立っていたのは、パールボーイズだった。全選手が、どんな時も気を抜かずに懸命に走る。
125㎏あるプロップの選手のカバーディフェンスからのタックルを何度見たことだろう。SOが蹴り上げたパントキックを、横一線に広がって追いかける姿も感動的だった。常に全力を尽くし、ラグビーに真剣に向かい合っているチームを見ると、レベルに関係なく清々しい気持ちになる。
けっして手を抜かない姿勢という意味では、福岡での取材期間中に感心したことがあった。JSPORTSのホームページでは、現在、「ラガーマンの経営・仕事術」というコーナーがある。ラグビー経験者の経営者数名にインタビューしていくものだが、福岡で「フランス菓子16区」という人気店を経営し、日本のパティシエ界の第一人者得ある三嶋隆夫さんへのインタビューを担当させてもらった。ホームページへのアップは6月になる予定。
三嶋さんは、流通経済大学のラグビー部の創部メンバーで、卒業後は帝国ホテルに入社。料理人を目指すが、ホテルの先輩の進めで菓子職人の道に進み、退社後は、スイス、フランスなどで修行を積んだ。パリ時代には名門店のシェフを務め、大女優カトリーヌ・ドヌーブに、「このスイーツを作った人に会いたい」と言わしめた伝説のパティシエである。
1981年に博多で開業以来、連日行列の途切れない「16区」にお邪魔したのだが、4階建ての自社ビルで働く社員のきびきびした動きに感心させられた。現在、パティシエは28名。パート、販売の社員も含めれば50名以上が働いている。お菓子の素材には一切妥協はなく、美味しいいちごやブルーベリーを求めて全国を歩く。人気店なのに、多店舗化しない理由も明快である。「16区の焼菓子はほとんど脱酸素剤を使用していません。毎日焼いているから入れる必要がない。常に焼きたて、出来たてをお出しするというのは16区の基本です。それを守るためには、お菓子を焼くタイミングなどの目配りが欠かせない。僕はいつも気持ちが入ったお菓子をお出ししたいのです」。
社員教育も徹底しており、パティシエも含めて全員が全国からの注文に電話で対応できるし、梱包作業もできる。お客様に対して、「担当者を呼んで来ます」という言葉は許されないのだ。取材に訪れた日の終礼では、お客さん様に対する言葉遣いに、三嶋さんから厳しいダメ出しが出ていた。もちろん、厳しいだけではなく、ビルに社員食堂を作って昼夜の食事を管理栄養士付きで提供するなど社員の健康管理にも心を砕く。「ラグビーと同じで全員が機能しなければ、試合には勝てないんです」。
成功に近道なし。いいものを作り続ける情熱に感服した。16区のスイーツはすべて美味しいが、三嶋さんが考案した、「ダックワース」、帝国ホテルに優るものを作ろうと研究を重ねた「ブルーベリーパイ」は絶品である。ぜひ、一度ご賞味を。JSPORTSのホームページは今後、さまざまな社長が登場して、その哲学を語るので、そちらもお楽しみに。