気がつけば3月である。前回に書いたのが12月15日だから、ずいぶん時が過ぎたというか、国内シーズンが全部終わってしまった。
待っていてくださった皆様、申し訳ありません。
1月8日に決勝戦が行われた全国高校大会決勝は、東福岡と桐蔭学園が引き分けで両者優勝。
21点差をつけられても慌てず追いついた東福岡には感心させられたが、体格の小さなものが勝つことの難しさを痛感する内容でもあった。
印象に残ったのは、東福岡の関係者が「一番否定してきたラグビーをしてしまった」と複雑な表情をしていたこと。
FWのパワープレー一辺倒のラグビーを否定し、グラウンドを大きく使ったランニングラグビーを貫いてきた東福岡が、 桐蔭学園相手にはFW周辺の縦攻撃で対抗せざるをえなかった。それは、どんな戦い方にも対応できる東福岡の懐の深さでもあったのだが、 展開力では桐蔭学園のほうが上だったという証でもあった。
全国大学選手権は、1月10日が決勝戦。帝京大学がFWの強みを全面に押し出し、早稲田大を攻略した。
決定力のある早稲田BKにボールを渡さず、じっくり攻めた帝京の戦いぶりも、このチームがシーズン当初に描いていたラグビーとはほど遠かった。関東大学対抗戦時はボールを大きく展開する戦法を目指したが、早稲田、明治、慶應に3敗。ここで岩出雅之監督は、「今季はここまで」と、 身の丈にあった戦法に絞り込み、大学選手権直前の12月からは練習も大幅に変えた。できることだけでシンプルに勝負した連覇達成だった。展開ラグビーの実現は来季への宿題である。
高校、大学と、優勝チームが理想と現実の狭間で揺れ動いたのに対して、理想を求める一貫した強化で日本選手権の頂点に立ったのが サントリーサンゴリアスだった。トップリーグで悲願の初優勝を果たした三洋電機ワイルドナイツも、ここ数年の強化は一貫しており、 粘り強いディフェンスからの切り返しという得意の形を磨いた勝利だったのだが、サントリーの優勝は、理想を掲げ、 たった一年でそれを達成した点でより印象深い。
2010年春に就任したサントリーのエディ・ジョーンズ監督は、「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」というスローガンを掲げ、 超攻撃的なスタイルを作ると宣言した。「いいクラブにはスタイルがある。監督や選手が変わっても、それが伝統として受け継がれていく。我々もそういうものを作らないといけない。それは、日本で一番のアタッキングラグビーをすること」。
いったん方針を決めると、ジョーンズ監督は目標に向かって邁進した。試合で走り続けるフィットネス強化のための練習は熾烈を極め、 体調管理も厳格。体脂肪率はBKで10%以下、スクラム最前列の選手にも15%以下を求めた。シーズン当初こそ、相手に「軽くなった」と言われ、 体を絞った負の影響が出たが、次第に筋肉を増やすトレーニングの効果が出て、試合を重ねることに選手達は逞しくなった。
トップリーグの決勝では三洋電機に敗れたが、日本選手権決勝では三洋電機の鉄壁ディフェンスを崩す工夫を随所に織り交ぜ、 最後は突き放して見せた。SH日和佐篤の周辺にWTB小野澤宏時、FB有賀剛らをタイミング良く走り込まれせるなど、早めにゲインラインを突破。ボール争奪局面も少ない人数で対抗し、三洋電機のディフェンスラインを横だけでなく、縦にも揺さぶる見事な勝利だった。
試合直後のインタビューに答えたエディ・ジョーンズ監督は、たどたどしい日本語で「素晴らしいチームです。一生懸命練習しました。43人で最後に練習しました」と語った。大事なのは、「43人」である。シーズン当初、監督はミーティングで 「最後の練習に43人の選手全員が揃うようにしよう」と語った。最後に全員が怪我なく練習できるように、自己管理はもちろん、 裏方のスタッフも含めていい仕事をしていこういう意味だ。それができたからこそ、優勝直後に「43人」という言葉は出た。
前任者の清宮克幸監督時代からスクラム、ラインアウトのセットプレーは重視されていたし、若い選手を積極的に起用していたことも優勝の 土台となった。この勝利は、サントリーというチームが積み重ねてきた強化の結晶でもある。
しかし、勝ったのはエディ・ジョーンズ監督だった。今季の国内ラグビーでサントリーだけが理想を追求して勝てたのはなぜだろう。
突き詰めて書けば、コーチングがシンプルだったということに尽きる気がする。日本選手権決勝で三洋電機に追い上げられたとき、 竹本隼太郎キャプテンは、「難しいプレーはいらないから、シンプルで正確なプレーを心がけた」と試合後に明かした。
シンプルに正確なプレーを心がけているのに、サントリーの攻撃は停滞しなかった。むしろ、縦横無尽にボールは動き続けていた。
観客を楽しませながら勝つ。プロフェッショナル・コーチの手腕を見せつけられた思いがした。脱帽である。