BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

55th 生涯の財産

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国内シーズンが佳境に入ると瞬く間にときが過ぎてしまう。11月下旬は地元京都の紅葉の美しさに心奪われながら、京都駅を後にしては各地の試合を見て回った。

トップリーグも面白い試合が続いているが、今季は大学ラグビーがここ数年にない盛り上がりを見せている。特に、人気ある伝統校が集う関東大学対抗戦グループが抜群の観客動員力を見せた。ここ数年、低迷していた明治の復活が大きいのだが、11月23日の早慶戦は、秩父宮ラグビー場に2万人以上の観衆を集め、12月5日の早明戦は、4万人以上の大観衆が集った。タテの明治、ヨコの早稲田、タックルの慶應という、古典芸能にも似た様式美は、とかくルールが分かりづらいと言われるラグビーの中で、観戦初心者にも分かりやすい見方を提示する。これが、大正時代から続く伝統と相まって人気を保っているという見方ができるだろう。
なかでも今季の慶應は、小さい体格で勝つための工夫がちりばめられて興味深い。早慶戦勝利で見せた執拗なタックルと、ボールをキープして早稲田にチャンスを与えない戦いぶりは、全国の小さなチームに勇気を与えるものだった。
12月6日、大学選手権の組み合わせ抽選会が行われた。1回戦で慶應と対戦するクジを引き当てたのは近畿大学(関西大学Aリーグ3位)だった。神本健司ヘッドコーチは、こう話した。「慶應との対戦は、チームとしての財産になります。我々も小さいサイズで、ディフェンスからの切り返しで戦う。そういうスタイルをより高いレベルでやっている慶應と戦えるのは嬉しい」

もちろん、日本ラグビーのルーツ校との戦いも価値がある。ふと、自らの大学時代を振り返った。1985年、僕は大学3年生だった。大阪体育大学は、関西大学Aリーグで初めて同志社を破り、関西1位として大学選手権に出場した(当時の出場校は8校)。1回戦では、関東大学対抗戦4位の慶應大と対戦した。超満員の花園ラグビー場は霧がかかったようにもやっていた。いや、そんなふうに見えた。緊張感もあって早くグラウンドに出てしまい、手持ちぶさたに待ち受ける我々をよそに、慶應のタイガージャージが、霧の中、ゆったりと姿を現した。僕の緊張は頂点に達した。最初の相手のハイパントを落球。簡単にボールを落とした自分に驚いた。「俺、緊張してるやん」
魂のタックルを武器に数々の栄光に浴してきた慶應が猛然と襲いかかってきた。大体大フィフティーンは平常心を失い、前半30失点。後半猛追したが届かなかった。大舞台の経験のなさとは恐ろしい。それでも、試合後のアフターマッチファンクションで、慶應の選手達と言葉をかわし、部歌を聞かせてもらったことは生涯の財産となった。関西1位として対抗戦4位に負けたことは、恥ずべき事だと思ったが、その慶應が大学選手権を制し、社会人王者のトヨタ自動者までも破って日本一になってくれたことは誇らしかった。

社会人になって、そのとき戦った慶應の選手と会う機会があった。たった一度の対戦なのに、旧知の仲間と接するように話をしてくれた。
真剣勝負をしたからこそ仲間になれる。ラグビー文化のひとつだろう。12月19日から第47回全国大学選手権が始まる。優勝争いは、東海大、早大、慶大、明大、帝京大を軸に展開されるだろう。しかし、それ以外にも10チームが出場している。それぞれの試合に重い意味がある。各チーム、選手が、生涯の財産、そして友を得る。今年も、そんな感動がたくさんある大学選手権をじっくり楽しませてもらおうと思っている。