早いもので、もう10月である。2010年も残すところ、あと3カ月。世界のラグビーは、7月〜9月にかけて行われたトライネーションズ(南半球三カ国対抗)でニュージーランド代表オールブラックスが全勝優勝。8月20日〜9月5日まで、ロンドンで開催された女子ワールドカップでは、ニュージーランド代表ブラックファーンズが4連覇。ラグビー王国ニュージーランドが男女とも強さを発揮している。
日本のラグビーシーズンはこれからが本番だ。トップリーグは第4節に入り、大学ラグビーでは、最も遅い開幕となる関西大学Aリーグが10月10日に開幕する。トップリーグは、三洋電機ワイルドナイツ、東芝ブレイブルーパス、トヨタ自動者ヴェルブリッツが引っ張り、その他は大混戦の様相である。大学もしかり。東海大学の充実は確かだか、上位陣の力は拮抗している。何が起こるか分からない。
少し前の話になるが、9月20日、兵庫県の「JR神戸駅」近くにある神戸新聞・松方ホールで開催された特定非営利活動法人SCIX(スポーツ・コミュニティ・アンド・インテリジェンス機構)の10周年記念シンポジウムを取材した。印象に残った話があったので書き記しておきたい。SCIXは、神戸製鋼が軸になってさまざまなスポーツ普及を図るNPO法人である。理事長は、神戸製鋼コベルコスティーラーズのGM兼総監督の平尾誠二さんだ。
第1部では、「スポーツを通して人と、地域を育てる」と題して、日本ラグビー協会の森喜朗会長が約1時間講演。
第2部は、サッカー日本代表の元監督、岡田武史さん、神戸大学教授の金井壽宏さん、JOC理事の河野一郎さん、そして平尾誠二さんが参加してのパネルディスカッションだった。テーマは「スポーツのコアバリューとは〜世界に通じる人材の育て方〜」。なのに岡田さんは冒頭、「世界で活躍することが素晴らしいという考え方は、そろそろやめたほうがいい」と言った。テーマを全否定するようで本当に面白い人だという印象を受けた。実際、このあとも会場を沸かせるコメントを連発。地域で人の性格を決めてはいけないが、大阪人らしさかもしれない。
スポーツの価値については、平尾誠二さんが十数年前から言っている。「できなかったことが、できるようになること。その高揚感がスポーツはずばぬけている」。できなかったパスができるようになる、30mしか飛ばなかったキックが、40m飛ぶようになる。この達成感はスポーツを続けるモチベーションだろう。しかし、できれば、これとは違う角度の意見が出ないか。この日のシンポジウムは、そこに注目していた。
岡田さんがシンポジウムの終盤に語った見解は興味深いものだった。科学的根拠のない私見としながら、「どうしてこんなに豊かな国で自殺する人が多いのか。飢えで何万人も死んでいる国で自殺者はいないのに、日本では一年に3万人も自殺する。我々は豊かさに耐えられる遺伝子がないのではないか」と岡田さんは語るのだ。「今の若い人は大変なんですよ。我々が若い頃は身の回りに危険なことがたくさんあった。いまは何でも危険だからといってやらせない。だから、自分で山を作らないといけない。それがスポーツであり、文化なのだと思う」
スポーツは生きていくために必要なのだという意見である。危険にさらされながら苦しい道を乗り越えて目標を達成していく。そこに生きる力が沸いてくるということだろう。勝って喜び、負けて泣く。勝ちたいから、上手くなりたいから必死で練習する。その先に勝利があり、達成感がある。そういう経験をするには、スポーツは最適である。もっともっと日本でスポーツが盛んになれば自ら死を選ぶ人が減るかもしれない。スポーツの価値について、改めて深く考えさせられた。