前回のコラム「世界を見据える東福岡」を書き、そのターゲットである「サニックス・ワールドラグビーユース交流大会」を取材した。
4月28日〜5月5日まで、福岡県宗像市の巨大スポーツ施設であるグローバルアリーナで世界から8チーム、日本から8チームの高校が出場し、「世界一」の称号をかけて熱戦を繰り広げた。
4月上旬の高校選抜大会を見たところでは、東福岡の実力は昨季以上であり、桐蔭学園、大阪朝鮮もそれに匹敵する実力を持っている印象を持った。これらのチームがワールドユースで世界の強豪高校と戦った場合、どういう内容になるのか大いに興味がわいた。4チームずつ4組に分かれた一次リーグで東福岡は昨年優勝のダックス・ランド・ハイスクール(フランス)と同組。桐蔭学園はニュージーランド高校王者のハミルトンボーイズ・ハイスクール、そして大阪朝鮮は、イングランドの高校王者トルロ・カレッジと同組になった。
結果として、この3試合の直接対決は日本側の全敗だった。特にショッキングだったのは東福岡がダックス・ランドに0−29と完敗したことだ。フランスでは、学校でのラグビーは活動時間が長くなく、多くの選手がクラブチームに所属してプレーしている。つまり、チームプレーの練習は少ない。体格的に大きな選手もいるが、まだ鍛え込まれていない細身の選手が多かった。その相手に東福岡の選手達が簡単にボールを奪われ、細かなパス、ステップでタックルをかわされ、やすやすとボールをつながれていた。モールでもグイグイと前進し、自在にボールを動かすダックス・ランドを見ながら日本とフランスラグビーの底力の違いを見せつけられたようで、観戦に訪れていた日本の関係者も落胆の色を隠せなかった。
ダックス・ランドに完敗したあと、東福岡の谷崎監督は次のように話した。「体力差をうまく突かれましたね。ボディコントロールも上手かった。こちらは相手の身体を止めるので精一杯なのに、相手は身体を止めながらボールも殺していた。2つの仕事が同時に出来ている。また、2人、3人と協力してこちらのウィークポイントを突いてくる。オフロードパスへの2人目の寄りも早い。小さい日本人が走り負けたら、勝てないですよ。それにしても、真面目に走るチームですよね」
この言葉にすべてが集約される。つまりは攻撃面のサポート、カバーディフェンスともにダックス・ランドのほうがよく走るのである。この傾向は、ハミルトン、トルロらほとんどの海外チームに言えることで世界の強豪高校が牧歌的なレベルを脱して運動量豊富なスタイルに移行していることを表していた。日本が世界に勝っていくのは、ますます困難になっていると実感せざるを得なかった。
この大会、最終的にはハミルトンボーイズ・ハイスクールとトルロ・カレッジ決勝戦となり、ハミルトンが快勝で頂点に立った。このチームには、いますぐにスーパー14(南半球スーパークラブ選手権)に出場できそうな選手が多かった。すでにハミルトンを本拠地とするスーパー14「チーフス」の若手育成機関に所属している選手もおり、彼らは他のスーパー14のチームが持つ高校チームと対抗戦も行っている。
フランスの高校はクラブに所属している選手が多いが、ニュージーランド、南アフリカ、イングランドに関しては高校(多くは日本で言う中・高一貫教育)の間は学校のみでプレー。高校の全国大会や地域大会に参加している。ハミルトン・ボーイズ・ハイスクールに関しては、シーズン中の練習は週に8回。月曜=朝、夜、火曜=朝、夜、水曜=午後、木曜=朝、夜、金曜日=昼休み。そして、土曜は試合に臨む。そして、12月、1月、2月のオフシーズンは、チーフスの若手育成機関で練習する。クラブに所属しなくても、エリート選手を育てる仕組みは出来上がっている。こういう環境だからこそ、高校卒業後、すぐにプロ契約する選手が生まれるわけだ。
日本の高校も練習量、試合数ともに多いわけだが、強く感じるのは、ニュージーランドが未来のオールブラックスを育てるためにピラミッド型の強化を行っているのに対して、日本はそうなっていないということだ。ノックアウト方式の大会が多すぎ、弱いチームは試合数が少なく、強豪チームは試合数が多すぎる。東福岡について書けば、1月から新人戦、九州大会、選抜大会と休み無く公式戦を戦い続け、ワールドユース大会も含めれば、5月初旬の段階ですでに20試合近い。心身ともに疲れ切っていた感はあった。大阪朝鮮や桐蔭学園が結果を残せなかったのも、試合過多が一因だろう。
また、高校の地域代表が定着しておらず能力ある選手が切磋琢磨して代表を目指すというシステムがこれまでなかったため(5月下旬に三地域対抗が実施される見込み)、エリート選手を幅広く育てることができないでいた。日本も少しずつ改革は行われているのだが、既存の大会を廃止するなどして新たな強化策を施せる日程を作り直さなければ、改革も進まない。ここは、未来の日本ラグビーを担う人材を育てるという一点を軸に関係者の知恵を結集してほしい。大事な選手達を試合過多でつぶしてはいけない。日本チームの敗戦を見つつ、そんなことを痛感した。