2019年のラグビーワールドカップの日本開催が決まった。僕は、この朗報を100%ポジティブに受け止めている。2007年のフランス大会では、全48試合で225万人の観衆が集い、史上最高の収益となった。ホスト国が得られる収入は入場料のみ。その中で、拠出金となる約150億円を捻出するとなると、フランス大会以上の集客を目指さなくてはならない。単純にフランス大会の観客数を試合数で割ると、1試合平均46,875人である。現在、人気の大学選手権ですら4万人を突破することがない日本ラグビーにとってハードルは高い。しかし、目標が大きいからこそ、やり甲斐もある。これから10年間で、そこまでラグビー人気を引き上げるしかないのである。
このキャンペーンの中で、日本代表が強くなることは欠かせない要素だ。まずは、これまでのように代表事業部と競技力向上委員会が分離している組織ではなく、ジュニア層から代表までの一貫した強化体制に変更して効率よく強化を進めてもらいたい。日本代表の永遠の課題でもある、キック、パス、タックルという基礎スキルのレベルアップ、ゲームマネージメント能力を若年層にどう植え付けていくのか。ラグビースクールの指導者にも明確な指針を伝えていかなければ、世界に通用する選手は育たない。このあたりは、いますぐ始めてもらいたいものだ。
ファンを増やすのも時間がかかる。特定のチームのファンではなく、ラグビーそのものを愛するファンを増やすことが求められる。特定のチームを応援していても、試合が終われば仲間として交流するラグビー文化をファンのみなさんにも浸透させたい。レフリーに敬意を払うことや、相手チームに拍手を送る礼儀も、上手に伝えていかなくてはいけない。客席の応援席を分けるやり方はラグビー文化に反する。できるだけ早い段階で廃止してもらいたい。こうしたことをラグビーに関わる者すべてが心がけ遂行していくことで、10年後にどんなラグビー界が待っているのかと思うと胸が躍る。10年間の努力は、必ず2019年以降の日本ラグビーを明るく照らすことにつがると思うのだ。
10月31日、東京・国立競技場でニュージーランド代表オールブラックス対オーストラリア代表ワラビーズの定期戦「ブレディスローカップ」が開催される。この両国に南アフリカ代表スプリングボクスを加えた「トライネーションズ」では、南アが圧倒的な強さを見せているが、パワー、スピードともに図抜ける南アを倒すために、ニュージーランド、オーストラリアともに、さまざまな工夫を凝らしている。トリッキーなボールの動きは客席を楽しませるだろう。10年後のワールドカップを具体的に想像するためにも、この試合は多くの人に生観戦してもらいたいと思う。
前述したラグビー文化という面で、少し残念なニュースが届いた。昨年来日し、日本代表対トンガ代表のレフリーを務めた南アフリカラグビー協会所属のウィリー・ルースレフリーが34歳の若さで引退を表明したのだ。ある試合の終了後、客席のファンから顔に飲み物をかけられ、「モチベーションを失った」という。試合の終盤にホームチームの選手にイエローカードを出したことにファンが腹を立てての愚行だった。もちろん、これだけではなく、それまでにもファンやメディアから非難をあびることも多かったという。ルースレフリーは、まだアマチュアだが、9テストマッチで笛を吹いたほか、スーパー14や南ア国内の州代表選手権などでも活躍。南ア・ラグビー協会のトップ10のレフリーだった。
ラグビーのレフリーは非常にあいまいな競技規則の中で難しい判定をくださなければならず、批判を受けやすい。僕もJSPORTSの解説時にレフリングに注文をつけることはあるのだが、あくまで判定に対する疑問であり、レフリー個人の人格に言及しているのではない。
今季、学生王者の早稲田大学は、規律を守ることを目標の一つに掲げ、レフリーへのクレームを口にすることを慎んでいる。この姿勢を高く評価したい。特に、客席で試合を見ている部員の野次などは他の観客に悪影響を与え、レフリーの権威を失墜させる。これがエスカレートすれば、南アのようなことが起きてしまう。
当事者がレフリーに疑問を呈する場合は、試合が終わってから冷静になって話し合うべきだ。信頼する人に判定を「委ねる」というのが、「レフリー」の語源である。レフリーがいなければ試合は成立しない。今一度、レフリーへの敬意について考えてもらいたい。9月4日のトップリーグ開幕戦で国内シーズンが始まる。日本代表強化、トップリーグのレベルアップ、ファンを増やす努力と同時に、マナーのいい観戦態度も浸透させなければ、ワールドカップは成功しない。