BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

47th 世界に通用する選手育成システムを

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怒濤の試合ラッシュだった6月が終わり、日本代表が参加したパシフィックネーションズカップ(PNC)も7月3日で幕を閉じた。U20世界ラグビー選手権(JWC)をじっくり観戦し、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズの12年ぶりの南アフリカ遠征のテストマッチを堪能した。世界のテストマッチから日本代表の試合まで、さまざまなラグビーを眺めて感じることの多い1か月だった。
日本代表は2011年のワールドカップ(NZ開催)の飛躍に向けて強化を図っているのだが、PNCでは今年も昨年同様トンガからの1勝のみに終わった。では進歩がないのかといえば、攻撃面では防御を崩すオプションが増え、近いところで身体をぶつけあう接点でもフィジーやサモアに負けていない。1点差の惜敗だったフィジー戦では、残り10分のゲーム運びが課題として残ったし、防御面でもっと前に出てほしいところだが、着実に力はついている。なにより、2007年のワールドカップ後、大きくメンバーを入れ替えながら力が落ちていないのは過去の日本代表にはなかったことで、ここは評価されていいと思う。
ただし、細かいことを書けば、大事な局面で仕事をしている選手に外国人選手が多いところは気になった。外国人選手の人数ではなく、「いい仕事をする」という点だ。
ここで感じるのは、世界のトップレベルで戦える日本人選手の育成をもっと若い世代から考えていかなければいけないということ。現在の日本代表では、地域獲得のキック、プレースキックのほか、長いパスを通したり、相手とぶつかって攻撃の起点を作ったりするのを外国人選手に頼っている。それはそのまま日本人選手の弱点でもある。また、一人一人が受け持つディフェンスの幅が狭いので、相手のスピーディーな攻撃についていけないこともしばしばだった。
小野澤宏時や、今大会で活躍した今村雄太など日本人選手でも、スピードで負けない選手もいるし、SH田中史朗は小柄ながら好タックルを連発した。FWでも平島、青木、畠山のフロントローはじめ、能力の高い選手は多い。主力の外国人選手が目立つのは下働きを一所懸命にしている選手達がいるからこそ。それは分かっているのだが、世界で通用する日本人選手の数が足りない気がする。ワールドカップの一次リーグは短期間に4試合。同じメンバーですべてを戦うのは無理がある。まずは、当面の目標である2011年のワールドカップに向け、世界の大舞台で通用する選手を一人ずつでも増やすことが大切だが、同時に、日本代表が恒常的に強くなるために、十代の選手を育成するシステム作りを急がなくてはいけない。

5月、元日本代表の岩渕健輔氏が日本ラグビー協会のハイパフォーマンスマネージャー(HPM)に就任した。日本ラグビーの一貫した強化システムを構築するのが彼の仕事であり、本人曰く「いい選手を日本代表に送り込んでいく」のが重要な任務になる。
6月に開催されたJWCに参加した各国代表の監督は、各協会の若手育成担当者が多かった。たとえば、U20アイルランド代表のアレン・クラーク監督は、アイルランド協会のハイパフォーマンスマネージャーで、「16歳以上の選手を引っ張って、プロの選手に育てるためのプログラムを作るのが仕事です。国際的に活躍できる質の高い選手を育てたい」と話していた。アイルランドは、国全土を4つの地域に分け、それぞれにアカデミー組織を作って選手を育成している。15歳から18歳、18歳から19歳、そして23歳までと年齢も区切って、段階的にエリートプレーヤーを育成している。
こういうシステムを10年前から作り始め、それが、今年のシックスネイションズでの全勝優勝につながったわけだ。
まだ確定ではないが、2019年にワールドカップが日本で開催される可能性が高くなった。10年というのは、今の中学生達を国際的に活躍できる選手に育てるのに十分な時間だと思う。ポイントは、世界に通用する能力を持つ選手の発掘、個人能力を最大限に伸ばす指導、そして国際経験を積ませるシステムだろう。岩渕HPMの今後の活動には大いに期待したいところ。いいシステムを作ることができれば、10年先、オールブラックスと互角に戦う日本代表が見られるはずだ。これは夢ではなく、目標なのである。