BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

46th モール復権?

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またやってしまいました。気がつけば前回のコラムから2カ月が経過。お待たせして申し訳ありません。
前回、「個人が責任を果たしてこそチームは機能する」と書いた。この観点だと、シックスネイションズではアイルランドの優勝は堅そうだと予測していたら、その通り61年ぶりのグランドスラム(全勝優勝)。「当たった」と悦に入っている。
スーパー14(南半球スーパークラブ選手権)は、5月23日からトップ4によるプレーオフ。いまこれを書いている時点では7チームに可能性が残されているので予断は許されないが、今季のチーフスはいいなぁ。でも、一番感心させられるのはクルセイダーズの頑張りだ。
主力がごっそり抜けて一気に若返りながら、粘りのディフェンスを武器になんとか最終週まで優勝戦線に踏みとどまった。それこそ個々の選手が自分の責任を果たしている証である。
欧州NO1クラブを決めるハイネケンカップは、23日にいよいよ決勝戦。エジンバラのマレーフィールドで、アイルランドのレンスターとイングランドのレスター・タイガースが対戦する。レンスターのSOコンテポーミが足を痛めて欠場するのは残念だが、ともに各国代表クラスが揃っていることもあって壮絶な試合になりそうだ。

さて本題。5月13日、IRB(国際ラグビーボード)の理事会で昨年8月1日から世界的に実施されていた「試験的実施ルール(ELV)」の競技規則への本格導入に関する決議が行われた。結果として、この一年間実施されていた13項目のうち、10項目が競技規則に本格導入され、2009年5月23日以降の国際試合から新ルールとして施行される。日本ラグビー協会はさっそく協議に入り、日本での導入開始時期を検討。9月からのシーズンは間違いなく新ルールでの試合となる。そして、6月5日から日本で開催されるU20世界ラグビー選手権も新ルールで行われることになった。
詳細は、日本協会のHPなどでご確認いただきたいのだが、本格導入されないものは以下の3点。
※本格導入されない項目
第17条=頭と肩を腰よりも低くしてはならないという記述を削除する
第17条=プレーヤーは、モールを引き倒して防御することができる
第19条=いずれのチームも、ラインアウトに参加する人数に制限を設けない

実は、今回のELVの検討は2004年から始まっていた。世界各地のさまざまなリーグで実験を重ねながら、23項目の改正案が出来上がっていたのだが、各国の思惑が絡み合って最終的には10項目に落ち着いた。ELVを中心になって検討した人たちにすれば、「これじゃ意味ないでしょう」と言いたくなる内容だろう。ただ、保守的な人たちが強調する言い分も理解できる部分がある。競技規則の原則である「ラグビーは、すべての人にとってのスポーツ」という点だ。「競技規則は、異なった体格、スキル、性、そして年齢のプレーヤーに、それぞれの能力のレベルにおいて、コントロールされた競争的で楽しい環境において参加できる機会を提供する」。競技規則に書かれた一文は、ラグビーの多様性を強調している。つまりは見て楽しいスポーツを目指すあまり、スピードと運動量ばかりが強調され、プレーヤーの資質を限定する形を避けたいという考えである。

新ルールでもっとも注目されるのは、モールの引き倒しが認められないこと。この一年間、モールが倒せるようになったことで、モールによるトライは激減した。その代わりにディフェンス側が最初からモールに入ってこないために攻めるスペースが生まれないという現象も起きた。しかし、日本では、PKからタッチキック、ゴール前のラインアウトからモールでトライ、という観客受けの芳しくなかったトライが消滅したことで歓迎する意見が多かった。気になるのは、また日本国内で復権するドライビングモールの嵐である。ルールの範囲内でチームの特徴を出すことは悪いことではないのだが、モールが引き倒せない趣旨は攻撃スペースを作るため。この点、よく考えた上でコーチのみなさんにはチーム作りをお願いしたい。

ゴールデンウィークに福岡県宗像市のグローバルアリーナで行われたサニックスワールドユース大会を取材してきた。単独高校の世界大会は今年で10回目になり、試合のレベルは年々上がっている。そこでいつも目にするのは、日本の高校のモールの上手さである。そして今年に関しては、モールの倒し方の上手さだった。しかし、モールが押せればとことん押し、倒せるなら引き倒し方をすぐにマスターするという感覚は日本独自のもので、NZ、オーストラリア、南アフリカ、イングランド、フランスといった強豪国の高校ですら、そんな細かい指導はしていない。それより、もっと根本的なランニングスキル、キック力、パス能力、判断力といったベーシックな力を伸ばして戦っている。きめ細やかなチーム作りは日本の特徴なので否定したくはないが、若い世代ではベーシックなスキルをもっともっと伸ばすことを軸にしてもらいたい。ルールに踊らされず、本質を突き詰める。それが大切だと再認識した。ちなみに、NZのハミルトン高校のコーチは、「週8回練習している」と言っていた。日本の高校生が一番練習するという考えも改める時期に来つつあるようだ。