日本代表がアジア五カ国対抗で全勝優勝を決めた。現在のところ、アジア諸国で日本と対等に戦える実力があるのは、韓国代表で、その他の国とは実力的に差がある。この春の日本代表は、得点力アップを課題にしており、この点は着々とレベルアップしている。
ただし、6月から7月にかけて開催されるパシフィックネーションズカップ(日本、サモア、トンガ、フィジー、オーストラリアA、NZマオリによる選手権)の相手は、同格以上ばかり。厳しいディフェンスの中で、トライがとれるかどうか。真価が問われる。
さて、前々回のコラムでも触れた試験的ルールだが、5月1日のIRB(国際ラグビーボード)の会議で、2008年8月1日から1年間、ワールドワイドに適用される試験的ルールが決定した。日本でも、9月からのシーズンではトップリーグはじめ、各レベルで採用される。現在のラグビーは4年に一度のワールドカップを基本周期にしているので、この試験的ルールの適用方法に少し修正を加えながら、2011年ワールドカップに向けて、2009年から正式採用される可能性が高い。
現行のルールからの改正点は、13項目に及ぶ。スーパー14で採用されている試験的ルールとは少し違うので注意が必要だ。スーパー14の試合に最も大きな変化を与えているのは、ファウルプレーとオフサイド以外の反則が、PKからFKになるもの。これまでなら、PGを狙ったり、PKからのタッチキックを蹴り、マイボールラインアウトからモールでトライを狙う、というのがパターンだった。しかし、直接ゴールを狙えないFKでは、スクラムを選択するか、その場ですぐに速攻を仕掛けるのがほとんど。運動量アップの要因になっている。しかし、ワールドワイドの試験的ルールは、これを採用しなかった。見た目に、スーパー14ほどの劇的な変化はないと思われる。
ラインアウトでいくつか細かな変更があるのだが、それは観客席からは分かりにくい。観客席からの視点で違いが分かるのは、㈰スクラムのオフサイドラインが、現行の最後尾の戦から、5m下がること。㈪22mラインの後ろへパスでボールを戻してから、ダイレクトのタッチキックが蹴れなくなることだろう。もう一つ、スーパー14では採用されていない、「モールを引き倒してもいい」という項目もある。モールというのは、簡単に言うと、ボールを持った選手のまわりで両チームの選手達が組み合って押し合う状況である。現行のルールでは、防御側はまっすぐ押し返すしかなく、引き倒すと反則をとられる。試験的ルールはこれをOKにした。観客席からは見えにくいボールの停滞を少なくすることと、できるだけグラウンドを大きく使ってボールを動かすラグビーを推進するためだが、モールの引き倒し方法については明らかではない。モールの足下に飛び込んで固まりを崩すのは危険であり、新しいルールでラグビー選手を危険にさらすようなことは考えにくい。倒し方には一定の制限が加えられるはず。「もう、モールはできない」と過剰反応してモールの練習をやめたチームは損をするような気がする。
試験的ルール改正について、ゴールデンウィークに行われたワールドユースの会場で数名の高校ラグビー指導者にうかがった。みなさん、モールを崩してもいいという部分の詳細を知りたがっていたが、基本的に前向きな意見が多かった。京都の伏見工業高校監督の高崎さんは、「決まったものをネガティブにとらえても仕方ない。オフサイドラインが5m下がるなら、攻撃ではこれまでより2つくらい多くパスが使えるので、面白い攻撃が考えられるかもしれません」と言う。広島県の尾道高校監督の梅本さんは、「5m下がるからと言って防御で待っていたら食い込まれる。5mの勢いをつけられるような気持ちで前に出て行かなくては。やはり、日本ラグビーは前に出て突き刺さるタックルをしていかないと」と、これまでと変わらず前に出ることの重要性を語っていた。
スクラムのオフサイドラインが5m下がれば攻撃スペースが広がる。ここをうまく活用して攻め、防御を工夫したチームは、9月からの日本国内シーズンでも優位に立てる。もちろん、スクラムがしっかり組めなければ、5mのスペースは意味がなくなる。ルール改正が必要なのか?という議論は別にしなければいけないのだが、「ルールの変わり目はコーチの手腕が問われる」と、サントリーの清宮監督が話していたとおり、新しいルール下での知恵比べは、新シーズンのみどころのひとつになる。