「なんか、息切らしてましたねえ」。そう突っ込まれて力なく笑うしかなかった。5月16日のラグビー日韓定期戦の終了直後、ジェイスポーツの解説者・村上晃一の息は荒かった。聞きようによっては、ジャパンの不甲斐ない戦いに憤慨しているともとれただろう。ん? それはないか。
とにかく息も絶え絶えであった。これには理由がある。実は日本が勝った場合、萩本監督のコメントを聞くインタビュアーを命じられていたのだ。解説者がインタビューするなんて不思議に思われるかもしれないが、なんでも屋の村上の場合、こういうことがよくある。
試合終了直前の5分前には秩父宮ラグビー場メインスタンド下でスタンバイすることになっていた。スタンド最上段の放送席から駆け下りているときは、すでに19−19の同点だった。一抹の不安を抱えながらピッチに出ると、ジャパンが猛攻を仕掛けている。同時にマイクが用意される。WTB平尾がインゴールに迫った。劇的勝利の質問が頭を駆けめぐる。しかし、韓国の猛タックルでタッチに押し出された。しばらく後ノーサイド。担当者から、ペケのサインが出た。
「無し? 了解!」。怒り心頭の萩本監督がロッカールームに消えていった。それを横目にスタンド内部にある階段を一気に駆け上がる。途中で顔見知りの新聞記者と「やっちゃいましたね」と言葉を交わす。所要時間1分ほど。勢いよく放送席に駆け込んだ。元気に実況者の質問に答えようとしたら、めちゃくちゃ鼻息が荒かった。日頃の運動不足と、引き分けを恨んだ。
日本代表は、雨の中訪れた熱心なファンの期待を裏切り、今後のサポートを直接お願いする機会を逃したわけである。それだけではない。20位だった世界ランキングは22位に下がった(5月25日現在)。世界から見れば、ホームの引き分けは敗北なのである。日本選手に気迫が感じられなかったのは、さまざまなメディアに書かれているが、テストマッチは結果を残すことに価値があるという大前提を選手達が忘れていたことが最大の問題だった。最後のPGチャンスを狙っていれば勝利は固かった。
韓国ごときにPGで勝っても仕方ないという、見下した考えがあったはずだ。かくいう私も韓国には勝てるだろうと思っていた。確たる根拠もなく、ここ数年の対戦成績でそう考えた。反省しきりである。
強化委員会が掲げた今年の具体的目標は、世界ランキング15位である。テストマッチは韓国戦を入れて6試合ほどなのだから、1敗でもすれば、15位になるのは難しい。それを強く認識していれば韓国戦には高いモチベーションで臨めたはずだ。
救いは、日本代表が再始動した5月22日の練習に危機意識が感じられたこと。5月27日のロシア戦ではファンの感動を呼ぶ試合を見せてもらいたい。そして、勝利を確実に刻んで7月3日のイタリア戦につなげたい。日本代表は勝つことが使命である。