今年は花粉が多いと聞いていたけれど、こんなに苦しむとは思わなかった。JSPORTSでの解説の仕事が多いのだが、その時間をどう乗り切るか、ティッシュ片手に毎回ぎりぎりの勝負である。4月7日、全国高校選抜大会の決勝戦が埼玉県の熊谷ラグビー場で行われた。
僕はこの試合をJSPORTSで解説したのだが、途中で花粉症のことを忘れて、思わず「うまい!」と声を出してしまうプレーが多かった。
優勝したのは大阪の常翔啓光学園(4月1日、啓光学園より校名変更)、準優勝の御所工業・実業(奈良)ともに、小さな体格ながらボールを動かしてリズムを作っていくチームだった。FWのパワープレーを軸にチーム作りをする学校が多い中で、両校は防御に接近したところでのパスを連続させる。年末年始、花園ラグビー場で行われる全国高校大会でも注目の両チームである。
先日、大学選手権で優勝した早稲田大学ラグビー部の中竹竜二監督の著書「監督に期待するな」(講談社刊)を読んだ。ご本人が言う「日本一オーラのない監督」のチーム作りの考え方は興味深いものが多かった。前監督の清宮克幸氏ほどの強烈なリーダーシップを持たないからこその、「フォロワーシップ」による優勝である。中竹監督はこう書く。「リーダーが統率力を発揮するのがリーダーシップなら、フォロワーシップとはリーダーについていくフォロワーたちが自主性を持って組織を支えていくという考え方」。フォロワーシップで組織を作れば、誰がリーダーであっても組織は機能し続ける。なるほど、中竹監督らしいチーム作りである。
実は中竹監督が出席するトークイベントの司会をする機会があり、彼の言葉をいろいろ調べたのだ。その中で共感したものがある。
ワセダクラブのサポーター誌に掲載されていた中竹監督と同大学競争部駅伝監督の渡辺康幸さんとの対談での言葉だ。進行役の方の「技術とか戦術だけではなくて、教育的な面をどういう風に選手達に教えているのか」という主旨の質問に対し、中竹監督は質問とは少しずらしてこう答えた。
「僕は勝利至上主義であるべきだと思っています。人間性やモラルや礼儀っていうのは、本気で勝とうとすればそこに行き着く」
本当に勝ちたいと思えば、普段の相手より先に挨拶し、グラウンドのゴミを拾い、もし、ミスがあれば仲間に素直に謝れる。周囲の支えに心から感謝できる。心から勝ちたいと思えば思うほど、フェアな気持ちがわき、汚いことはしなくなる。この言葉に共感したことを中竹監督に伝える機会があった。「勝ちたいと思うからフェアに戦いたいと思うし、相手にもフェアな試合をしてほしいと思うんです」。
勝利至上主義という言葉はネガティブに使われることが多いように思うのだが、試合をする以上、勝利を追求するのは当然だし、真剣に取り組めば人間性が磨かれるのがスポーツなのだろう。勝つために手段を選ばないのは、本当に勝ちたいということとは違う。
勝負は綺麗事だけでは済まないことは承知だが、綺麗なものを目指すことの大切さが、この激しいスポーツの中で伝わってくれることを願う。新シーズンを戦う中で、多くの選手達に崇高な精神状態にまで到達してほしい。そんなチームと選手達に、たくさん会いたいと思う。
前回のコラムの最後で書いたハイネケンカップ(ヨーロピアン・カップ)は、トップ8による準々決勝が終了した。4月11日からJSPORTSで順次放送されるので、興味のある方は是非ご覧いただきたい。