東芝ブレイブルーパスが、トップリーグ、日本選手権を制して、2006年度の国内シーズンは幕を閉じた。そして、いつのまにか30回目となったこのコラムを書くのをうっかりしているうちに、北半球のシックスネイションズ(6か国対抗)が大変なことになっている。
2月3日、イタリア対フランス戦から開幕した2007年シックスネイションズは、3月11日、第4週を終えたところで、フランス、アイルランド、イングランドが3勝1敗で並び、最終節で3チームに優勝のチャンスがあるという状況なのだ。
このコラムがアップされた後、すぐに結果は出る。今回書きたいのは優勝争いの行方ではなく、真剣勝負の面白さのことだ。
たとえば、2月24日に行われたアイルランド対イングランド戦。アイルランド代表のホームグラウンド「ランズダウンロード」が解体中のため、アイルランド古来のゲーリックスポーツのメインスタジアムであるダブリンの「クロークパーク」が使用されたのだが、この競技場には血塗られた歴史があった。1920年、ゲーリックフットボール観戦中の市民十数名と選手一名がイングランド治安警察により射殺されたのだ。時はアイルランド独立戦争のまっただ中であった。この競技場で初めてイングランドを迎え撃ったアイルランドの気迫、前に出るタックルは凄まじかった。歴史的背景も手伝い、衛星中継で見ているこちらにも、一つ一つのプレーの重みが伝わってくる。
アイルランドは、3月10日に不振のスコットランドと対戦した。下馬評ではもちろんアイルランド有利だったのだが、両者は、1877年から戦っており、勝ち星だけで言えば、過去119戦してスコットランドが61勝アイルランドが52勝という間柄である。2002年からはアイルランドが6連勝なのだが、長い間しのぎを削ってきた両雄の戦いは大差にならない。それは伝統の試合を戦ってきた相手への敬意だ。敬意があるからこそ全身全霊を賭けて戦うのである。結果的には今年もアイルランドが勝ったが、19−18という僅差だった。ホームのマレーフィールドで意地の反撃をするスコットランドを見ていて胸が熱くなった。
2006年度の国内シーズンを振り返れば、好試合は数知れない。マイクロソフトカップ決勝戦は、早大からサントリーの監督に転身して注目された清宮克幸氏と、監督5年目のプライドに賭けて立ちはだかった東芝薫田真広氏の対決が価値を深めた。意地とプライドのぶつかり合いは、ラグビーが体をぶつけあう競技だからこそ、観る者の心に響く。長い伝統を誇るチームが多い大学ラグビーが人気を誇る所以だろう。トップリーグでも各チームのライバルストーリーは次々に熟成されつつある。来季以降も、年を追うごとに深みは増すはずだ。
そして思う。ラグビーはつくづくエキシビジョン的なゲームには不向きなスポーツだと。選抜チーム同士の試合は、それが日本代表の選考対象であるなど意味が付加されていない限り、選手のモチベーションは低い。低いから辞退者が相次ぎ、試合でのプレーの真剣味に個人差が出る。したがって、観る者を感動させる試合にはならず、観客は増えない。大学の東西対抗や、関東、関西、九州の各代表が戦う三地域対抗については、選手のモチベーションの部分にフォーカスした試合運営が望まれる。危険をともなうスポーツだからこそ、チーム作りは慎重に行うべきだし、コーチが責任を持って選んだメンバー同士が、明確な目的を持って試合すべきだろう。選手が全身全霊を賭けるに値する試合とは?と考えれば自ずと答えは出る。
さて、まもなく日本代表のシーズンがスタートする。選手にとってはワールドカップ出場メンバー入りへのサバイバルマッチだ。
相手がどこであれ、内容のいい試合をしてくれるはず。ぜひ、多くのみなさんにグラウンドへ足を運んでもらいたいと思う。