BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

28th カーワン次期HCへの期待感

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またまた間隔を空けてしまった。みなさん、ごめんなさい。9月のシーズンインから、日本ラグビーにはいろんなことが起きすぎた。4年目を迎えたトップリーグは、9月1日に開幕。僅差勝負が相次ぎ期待感が高まったところで、日本代表のフランス人ヘッドコーチ(HC)ジャンピエール・エリサルド氏の解任騒動が起きる。暫定的に代表チーム事業部の太田治GMのHC兼務が決定。次期HC探しが始まったかと思った矢先、意外にあっさりと、ジョン・カーワンの名前が発表される。元NZ代表の英雄的WTBであり、イタリア代表監督として2003年W杯を戦い、2勝をあげた実績に加え、日本のNECでもプレー経験があるという、まさにうってつけの人材だった。ワールドカップアジア最終予選が行われる11月は、アドバイザーとして日本代表に帯同。正式な契約は来年の1月からとなっているが、これはアドバイザーを務めるNECグリーンロケッツとの契約に区切りをつける上での問題であり、事実上、カーワン体制はスタートしている。「ジャパン・スタイルで戦えるチームを作り上げたい」と言い切り、日本に住み、国内試合をその足で見て歩き、毎朝6時に起床して日本語の勉強に勤しむ姿は、前任者とはあまりに対照的でメディアの反応もすこぶるいい。

指導方法も日本に適していると言えそうだ。NZのコーチにもいろんな人がいるし、フランスのコーチだって、それぞれ教え方は異なる。だからこれは一般論なのだが、フランス流のコーチングは、いきなり試合形式で練習させて問題点を指摘していくタイプ。NZは、ゲームの各部分を切り取り、ドリル練習を積み重ねて大きなプレーを作っていく積み上げタイプである。エリサルドとカーワンもコーチングのアプローチは一般論に当てはまる。カーワンはドリルを積み重ねる。たとえば、日本代表が目指す、スピーディーにパスでボールを動かすラグビーを実現するためには、パスを動かすための約束事を作らなければならない。ボールを持った選手が横にいる選手、横にいる選手と、順にパスを回したのではディフェンスを破ることはできない。囮で走る選手、角度を変えて走り込む選手がいてこそディフェンダーは迷う。このような動きを織り込んだシンプルな攻撃パターンを繰り返し練習し、試合で実現させるわけだ。日本の多くのコーチが「日本選手には積み上げ式が合っている」と言う。個々の自由な発想に呼応して芸術的なプレーを創り出すより、準備したプレーを正確にこなすのを得意とする選手が日本には多いということだ。

だからかもしれないが、カーワンのコーチングを受ける選手達の表情もどこか明るい。なんのための練習かが明確だからだろう。
もちろん、どんなに多く約束事を作ろうが、それをどのタイミングで出していくかという状況判断が重要なのは言うまでもない。

カーワンと日本ラグビー協会の契約は、来年1月から2年間とのことだが、結果を残し、着実に日本代表が進化していると認められれば、長期政権になる可能性もある。日本代表SHの後藤翔太選手が言っていた。「JK(カーワンの愛称)は、『自分が今までやってきたことを出せ。自分の色を消すな』と言ってくれる。一人一人の個性を出させたいと思っているようです」。イタリア代表監督時代は、イングランドやフランスという強力FWのチームと互角に戦えるパワフルFWを作り上げた。日本では、BKのスピードを生かした素速く動くチームを目指す。選手達の特性を生かしてチームを作り上げるのが、カーワンの流儀だ。面白いのは、カーワンが日本代表を率い始めたことで、報道陣、そして日本協会関係者まで表情が明るくなっていることだ。日本代表取材の報道陣の数は、エリサルド体制の倍以上になっている。日本代表に期待感が持てるだけでラグビー界は活性化するのである。これで結果がついてくれば、日本ラグビーも再び上昇気流に乗ることができる。その第一関門となる2007年ワールドカップアジア最終予選は、11月18日から香港にて始まる。香港(18日)と韓国(25日)に勝てば出場権獲得だ。日本ラグビーの未来を明るく照らすゲームをしてもらいたい。