7月下旬、北海道は網走に行ってきた。網走がラグビーの合宿地として認知され始めたのはここ10年のことだが、いまではトップリーグの大半のチームが集い、連日練習試合などを繰り広げている。網走駅からタクシーで15分ほどの網走スポーツトレーニングフィールドは高台にあり、絨毯のような芝生が鮮やかな7面のグラウンドを有する。テニスコートや、パターゴルフなどのコースもある総合スポーツ施設なのだが、夏はラグビー一色だ。
今季よりトップリーグに昇格した、コカ・コーラウエストレッドスパークスの向井昭吾監督は、東芝の監督時代から十数年にわたって網走を訪れている。「素晴らしい芝生と美味しい食事。合宿の楽しみといえば食事しかないですから、この2つがあれば十分なんですよ」。日差しは強いが、昼間の最高気温が25度程度、夜は18度くらいまで下がる。空気も適度に乾燥しており、取材していても心地よい気候だ。なんだか、網走の広報マンのようになってしまったが、網走より合宿地としては古い歴史を持つ北見、そしてNECが合宿する美幌も含め、車で1時間で動ける圏内に今年もトップリーグの14チーム中11チームが集まっているのだから、今後も夏の北海道、特に道東からは目が離せない。
さて、その北海道で、ここ数年には見られなかった波乱が起きている。三冠王者の東芝が、トヨタ自動車に22−33で敗れたのに続き、クボタスピアーズにも21−47で敗れた。そして、昨季の日本選手権決勝で東芝と引き分けたNECも8月1日、40分3本勝負という変則マッチながら、トヨタ自動車に21−97で敗れている。過去3年間の社会人2強である東芝とNECがどうしてしまったのか。
東芝の薫田監督は、素直に調整遅れを認める。PR笠井、LO大野、FL中居、SH伊藤、WTBオトなど日本代表の春シーズンに活躍した選手達は、7月1日のフィジー代表戦後にチームに合流した。そこから1か月では、彼らを入れ込んだチーム作りが遅れているのは当然であり、さらに7月中旬のオーストラリア遠征でマクラウド、ホルテンなど主力に負傷者が出てしまった。薫田監督は就任5年目のシーズン直前、過去に例のない苦境に立たされている。NECも事情は似通っているようだ。
今季のトップリーグは、14チームに拡大されたことで、シーズン開幕が例年より約2週間早まった(9月1日開幕)。つまり、日本代表選手を含めてのチーム作りには2か月弱しかない。逆に下位チームは、上位チームが万全の状態ではないリーグ序盤で勢いに乗ろうと仕上がりを早めている。加えて、9月はまだ気温も高く、昨季、前年度7位だった三洋電機が開幕から8連勝という快進撃を見せたようなことが起きる可能性は十分にある。東芝、NECを連破したトヨタ自動車は尻上がりに調子を上げているが、そのトヨタを網走で一蹴したサントリーは、今季もっとも注目される存在。早稲田大学を5年で3度優勝させた清宮克幸監督の就任でチームの方向性が定まっている。攻撃のテンポは速く、一人一人のボール保持者がさまざまなスキルを駆使して前進し、サポートの選手もいいコースに走り込んでくる。その意志統一を清宮監督が細かく指導しており、夏の時点でチームの完成度は他チームを大きく引き離している。