日本の暑さを痛感している。実は、6月15日から26日までラグビー日本代表のニュージーランド(NZ)遠征を取材してきた。NZは日本と季節が逆になる。真冬である上に今年は異常気象で非常に寒い。過去に10回ほどNZに行っているのだが、街中で雪が降るのを見るのは初めてだった。帰国したら、東京は30度を超える暑さである。まいった。湿度も高い。NZでは、よく雨に降られたが、濡れたコートもカフェでコーヒーを飲んでいるうちに乾いてしまうくらい乾燥している。ついでに肌も乾燥してカサカサになるのだが、そういう時はNZ特産の羊クリームが肌に潤いを与えてくれる。なんか、通販番組みたいになってきたので、本題に入ろう。
NZでの日本代表は、新設されたパシフィックファイブネイションズ(ジュニア・オールブラックス=NZ・A代表に相当、フィジー、サモア、トンガ、日本が参加)のサモア戦とジュニア戦を戦った。結果は、ご存じの方も多いと思うが日本代表は連敗。しかし、ジュニア・オールブラックスには、100点とられる可能性もささやかれた中で、8−38の健闘。特に、しつこいディフェンスはジュニアの選手も驚くほどだった。スクラムも大きく改善された。ただし、トライは、WTB三宅のひとつのみ。現在の日本代表は、トライの取れないチームになってしまっている。エリサルド・ヘッドコーチ(HC)が、具体的な攻撃戦略を選手に示していないことが一番大きいのだが、BKラインがほとんど防御ラインを破れないのである。
気になるのは、日本代表が得意としてきた「接近プレー」がほとんど見られなくなっていることだ。まずは、ボール保持者が相手防御にギリギリまで接近、または接触する。同時に、味方選手がタイミングよく防御の隙間に走り込んで、すれ違いざまにパスを受けて防御を突破する。過去、日本代表が強豪国に健闘した試合では、接近プレーのスペシャリストが見事に防御ラインを破っている。1968年オールブラックス・ジュニアを破った日本代表CTB横井章さん、1989年にスコットランド代表を破った日本代表CTB朽木英次さんなどだ。海外のトップ選手はパワフルな選手が多く、タックルを受けながらパスを出すことも多いが、パワーで劣る日本選手の伝統芸は接触する寸前か、接触した瞬間のパスである。
6月は、北半球の強豪国が南半球に乗り込んで各地で試合をしたのだが、どの試合を見ても、相手の攻めるスペースを素速く消す「ラッシュアップ・ディフェンス」が主流で、これを突破するには、接近プレーか、激しく前に出てくる防御の裏へキックを蹴るしかなくなっている。南アフリカを破ったフランスを筆頭に、接近プレーのレベルは日本よりはるかに高い。南アフリカに敗れたスコットランド、オーストラリアに敗れたイングランド、アイルランドを見ても、どの国も、ボールを受ける前の選手がさまざまな角度に動くことでスペースを作り、ボール保持者は防御ラインに接近してギリギリのパスを通す。日本チーム同士の試合では、防御ラインが激しく前に出てこないこともあって、接近プレーを磨く機会が少ないように見える。だからこそ、激しいプレッシャーにさらされるパシフィックファイブネイションズへの参加は価値があるのであり、出場するのであれば、接近プレーを磨かなければならないと思うのだ。
接近プレーのスペシャリスト横井章さんは、首が驚くほど太い。相手の胸に額をぶつけるようにパスをしていたからだという。
低い姿勢で相手に接近していき、たとえ接触しても頭で相手と自分の体にパスを出す隙間を作っていたというのだ。抜く瞬間の極意も聞いたことがある。「ラグビーはボールを持っている選手にしかタックルできないでしょう。そこを利用するんですよ」。
たとえば、二人対二人で相対したとする。当然、防御側の一人はボール保持者をマークし、もう一人はパスを受ける側をマークする。パスを受ける選手はどんなに相手に接近しても、ボールを持っていないうちはタックルはされない。だったら、パスを受ける瞬間に走るコースを変えることで、ディフェンダーを出し抜くことができるはずだ。「パスを出す選手がどれだけ我慢できるか。ここがポイントですね」。現実的に、スピード、パワーともに強豪国に劣る日本選手は、細部を磨くしかないのである。
もちろん、スクラムやラインアウトの安定、一対一で確実に倒すタックルなど、ベーシックなスキル向上と並行していくことは当然のことだ。
前回の本コラムは「ディフェンスは前へ」、今回は「接近してパスで抜く」。守っては素速く前に出てスペースを奪い、攻めては接近プレーからの正確なパスで防御を破る。今や世界の潮流である。そして、かつては「日本流」だった。日本流が磨かれるような試合をトップリーグや大学ラグビーでも見せてもらいたいと思う。7月1日、日本代表は大阪長居スタジアムでフィジー代表と戦う。直前にこれを書いたのは、内容がどうあれ日本代表の目指すべきところは変わらないと思うからだ。