日本代表の新しいヘッドコーチに、ジャンピエール・エリサルドが決まった。彼はこの春の日本代表のアドバイザーを務め、フランス流導入を目指した萩本ジャパンの核になる人物だった。6月25日、日本協会は森喜朗会長、真下昇副会長、和田文男副会長を筆頭にした新体制を発表した。翌日には、世界8強進出会議が、既存の強化委員会を発展的に解消し、日本代表部門を協会内で独立した組織にすること、そして監督制を廃止し、グラウンドでの技術指導に専念するヘッドコーチ(HC)と、管理運営など実務を統括するゼネラル・マネージャー(GM)に権限を分ける方針をまとめ、理事会に諮っていくことが明らかにされた。そして、7月17日、8強会議がエリサルドのヘッドコーチを答申し、19日の日本協会理事会で承認されるに至った。
監督制廃止は、単に言葉がヘッドコーチに変わっただけなのだが日本代表部門が独立したことは意味がある。これまでの強化委員長は、ユースレベルからすべての強化を統括しており、結局はどこにも注力できず、遠征や合宿に顔を出すだけで忙殺されるという悪循環に陥っていた。代表強化はマネージメントなども含めて監督が気を配らなくてはならない状況だったわけだ。長らく続いた日本協会のアマチュア体質がそうさせてきたわけだが、2001年からの代表選手は活動期間は協会と契約を結ぶプロ選手になっており、それを統括するマネージメントサイドがボランティアではさまざまな無理が生じていた。ようやく、マネージメントサイドも含めて日本代表がプロフェッショナルになっていく組織が作られたということになる。
この原稿を書いている7月28日現在、GMやアシスタントコーチなどのスタッフは未定だが、代表のチーム編成などについては、エリサルドHCを軸に進められることになる。本格始動は来年からになりそうだが、まずは11月に予定されるテストマッチで指揮を執ることになる(相手国は調整中)。
エリサルドHCは、1953年12月31日生まれの51歳。フランス代表で5キャップを持ち、フランスB代表のコーチや、各クラブのコーチを務め、フランス協会のコーチ養成コース講師でもあった。当初、日本協会は99年のW杯でフランス代表のコーチも務めたピエール・ヴィルプルー氏にコーチ就任の要請をしたかったようだが、ヴィルプルー氏は、IRB(国際ラグビーボード)の欧州地区ディレクターという要職にあり、単独チームのコーチになることはできなかった。そこで最終的にはヴィルプルー氏のアドバイスを受けて、彼の理論を受け継ぐエリサルド氏を推薦され、春の日本代表に帯同させて上で、最終的に選出されたようだ。つまり、春の段階でエリサルドHCの構想があったということだ。
ヴィルプルー氏の理論というのは、簡単に言えば、相手との接触を極力避け、当たってもラックなどを作らずにパスでつなぐ、スペースを有効利用するラグビーだ。ただし、ここが重要なのだが、フランス代表を見て分かるとおり、彼らは体格的に他国に引けをとらない。だからこそ、タックルされても立ったままボールをつなげるのだ。日本人に同じ事は無理であって、あくまでもスペースを有効利用する部分の考え方を活用して日本ラグビーのスタイルを作っていく方向でないと好結果は望めない。エリサルドHCも、指導歴が20年近くになるベテランであり、日本人選手に不向きなことをやらせることはないだろう。春のテストマッチシリーズに帯同したことで、日本人選手の特徴はつかんでいるはずである。
個人的な印象だが、5月15日に行われた日韓戦後のエリサルドの表情に彼への期待感がふくらんだ。敵地での辛勝に選手も首脳陣も安堵の表情を浮かべていたのだが、エリサルドは深刻だった。そして、試合後すぐに韓国のコーチ陣に駆け寄った。称えたのだと思う。あの試合、韓国の俊敏なランニングとパスワークは、日本からのサポーター、報道陣をも魅了した。スペースを有効活用して先手先手で仕掛けていたのは韓国だったのだ。アジアの選手の可能性を、エリサルドは見て取ったはずである。目標は、2007年のフランスW杯での好成績。時間は限られている。狂いのない選手選考とチーム作りを期待したい。