95年のアマチュア規定撤廃以降、プロフェッショナル・ラグビー時代の先端を行った南半球スーパークラブ選手権「スーパー12」が幕を閉じた。最後のチャンピオンは、ニュージーランド(NZ)南島クライストチャーチを本拠地とするクルセイダーズ。オーストラリアのワラタスを、35−25で破った。同リーグ9年の歴史上、7回決勝に進出して、うち5回の優勝である。まさに、スーパー12の主役が最後に有終の美を飾ったことになる。という書き方をすると、なんだか寂しいが、この選手権、来年はオーストラリアと南アフリカから1チームずつ増え、「スーパー14」として生まれ変わる。2チーム増えると、計25試合増えることになり、ファンには嬉しいばかりだが、選手たちの肉体的負担を考えると、長続きするのか不安になる。
5月29日の午後、JSPORTSで、その「スーパー12決勝戦」の解説をした。クルセイダーズの攻守にわたる反応スピードの異常な速さに驚かされた。ここで大事なことは、ただ運動能力の高い選手が集まっているだけでなく、チームとしての規律、約束事が徹底されている点だろう。相手が孤立したときの素早いプレッシャーと、ボール奪取率の高さは、ボールが奪えそうな瞬間をチーム全員が感じているということであり、勝利へのイメージの共有を強く感じた。何から何まで動き方を決めてあるサインプレーとは違う「約束事」があるのだ。早大の清宮監督が言うところの「チームのセオリー」である。日本のチームが参考にすべきなのは、こうした点だろう。パワーとスピードだけに気をとられては大切なことが置き去りになる。
選手として特筆すべきは、クルセイダーズのダニエル・カーターである。2004年のNZ最優秀選手であり、現在のNZラグビーのNO.1選手だ。ゲームをコントロールするSOとして、正確でよく伸びるタッチキックにはほとんどミスがない。ステップも切れるし、タックルも堅実。文句なしのラグビー・フットボーラーだ。キックの練習はクルセイダーズでも一番らしく、少年時代は、誕生日に親からゴールポストを贈られ、家の裏でひたすら練習したという。努力するスーパースター。まだ23歳であり、当分、NZラグビーは安泰だと思わせる。カーターの名前を覚えておいて損はない。
もう時間が経ってしまったが、イングランドのプレミアシップも、5月14日に決勝戦が行われ、ロンドン・ワスプスが、レスター・タイガースを39−14で破り、3年連続5度目の優勝を成し遂げた。タイガースには、この試合が同チームでのラストとなる元イングランド代表マーティン・ジョンソンがおり、意気込みは凄まじかったが、ワスプスの「ブリッツ・ディフェンス」と呼ばれる、猛然と前に出る防御にしてやられた。思い切って前に出るディフェンスは、破綻するとカバーが遅れるために中途半端になってしまう場合が多いが、ワスプスは、敢然と前に出ながら穴がない。年々、精度は高まっている気がする。ワスプスに代表されるように、世界先端のラグビーは、防御で以下にプレッシャーをかけるかが重要になっている。逆に言えば、そのプレッシャーの中で、正確なプレーのできる選手しかトップレベルでは生き残っていけない。
日本の選手たちは、いまこうした試合を映像で容易に見ることが出来る。世界の進化を常に感じながら強化ができるわけだ。過去、情報がない時代に文書をひもとき世界の戦術を思い描いた先人たちの苦労を思えば、幸せすぎるほど情報があふれている。なのに、日本代表の成績が芳しくないのはどうしたことなのか。そこに何を見るか。見る目の確かさが試されている。