BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

13th ラグビーは気持ちが大切

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東芝府中ブレイブルーパスが敗れた。トップリーグ、マイクロソフトカップの2冠を制し、3冠も絶対視されたなかでの敗戦だった。得意のドライビング・モールを封じられたことに対しては、監督、選手ともにルール解釈の問題で言いたいこともあるようだったが、薫田監督の第一声は「この一年間、キャプテン始め、スタッフ、選手は本当によくやってくれた。満足できるシーズンでした」と潔かった。なにより、トヨタ自動車ヴェルブリッツの気迫溢れるチャレンジが見事だったし、苦しい試合のなか最後まで精一杯戦った東芝府中の選手達も立派だったからだろう。まだ決勝が残されているが、今季の日本選手権は気持ちの大切さを教えてくれたという意味で、いいトーナメントになったのではないか。

1回戦でタマリバが早稲田に果敢な挑戦を見せ、最後まで諦めない気持ちの大切を学んだ早稲田がトヨタ自動車を鬼気迫るタックルで追いつめ、その早稲田のひたむきさに学んだトヨタが準決勝で最強の東芝府中を倒した。どんなに強い相手にもつけいる隙はある。周到な準備と集中力で、勝負の面白さを見せてくれた各チームに感謝したい。

そして、東芝府中ブレイブルーパスの2冠に心から敬意を表したい。特に感銘を受けたのは、マイクロソフトカップの決勝戦だった。後半開始早々に6点差に迫られたとき、薫田監督は足首の負傷明けで控えに回っていた冨岡キャプテンを送り込んだ。

「流れを変えるプレーをしたかった」と、キャプテンは身体を張って何度も縦に切り込んだ。その姿勢を見るだけで、すでに涙腺は緩んだ。劣勢のチームをプレーで鼓舞する。リーダーのあるべき姿であり、東芝の強さの源だった。そして、終盤に投入されたFL宮下のタックル。今季はベンチ入りさえままならなかった苦労人の負けじ魂だった。トライめがけて突進してくるヤマハのフィジアン、セワンブ(193㎝、105㎏)の膝に突き刺さったのだ。ゴール前5mほどの大ピンチ。セワンブは勢いに乗っており、もしタックルが外されればトライを許す局面だった。宮下は低い姿勢のまま一歩も下がらず、脳震とうを起こしながらセワンブをはじき飛ばした。冨岡キャプテンが振り返る。「これまでラグビーをやってきて、最も心に響いたタックルです。しかもフラフラになっているのに、また立ってタックルに行こうとしていた。みんなに、アレ見てみろ、あとは俺らでやるしかないぞって言ったんです」。試合後の表彰式、ジェイスポーツの解説をしながら拍手したのは初めてだった。試合内容には薫田監督も不満が多かっただろう。しかし、もどかしいゲーム展開の中でキャプテンが役割を果たし、控え選手が最高の仕事を成し遂げる。今季の東芝の集大成を見る思いがした。あれだけ満足度の高い優勝をすると、直後のトーナメントでベストパフォーマンスを見せるのは難しい。日本選手権が獲れなかったからといって、東芝の今季の栄光が色あせるものではない。最後の敗戦で、彼らはさらに強くなるだろう。

いまから来季の戦いが楽しみになってきた。最後になったが、モールの止め方に関するルール解釈はチームとレフリー間で綿密に議論するべきだ。東芝の選手やコーチ陣は「きょうは、モールに対するルール解釈が、これまでのレフリーと違った」と話している。トヨタ側も20を超えた反則の多さに不満を募らせていた。レフリーによってルール解釈に多少の違いがあるのは致し方ないが、大きな差になると選手は迷う。単なるレフリング批判ではなく、一貫したレフリング実現のための前向きな議論を期待する。