BLOG 楕円紀行

About Koichi Murakami

12th 勝機をつかむ

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前回の本コラムでレフリングのことを書いたら、レフリーの方から反応があった。肯定的な意見だった。試合をどうやってスムーズに動かしていくか。レフリーの方々も頭を悩ませている。そんな気持ちに応えるためにも、レフリングのことは書き続けていきたい。高校大会、大学選手権、トップリーグと、年末年始は多くの試合を見たが、細かい反則を取らずに、試合を流していこうというレフリーの意識を感じることが多かった。選手に対する言葉も丁寧だった。昨年来日したリンドン・ブライ氏の淡々としたレフリングは影響を与えたのではないか。「試合の流れに直接影響を与える反則」以外は流す。ノックオン、スローフォワードは、はっきりしたものしか笛を吹かない。これだけでずいぶんゲームは流れる。
難しいのはタックル後の攻防だ。タックルされた選手はボールを離さなければならない。相手はしっかり立ってボールを奪わなければいけない。敵味方計3人以上が集まってラックになったら手は使えない。いったい誰が反則なのか、この判定だけは序盤に基準を明確にしないと反則が増える。「密集戦がわかりにくい」というファンの声は、レフリングの不明確さも要因だろう。
基準が首尾一貫していれば観戦者側も分かりやすいはずだ。コーチ、選手、レフリーが知恵を出し合っての基準の統一をお願いしたい。

この1か月、連日、負けたら終わりの真剣勝負の場に立ち会った。たくさんの勝者と敗者を見ていて痛感したのは「勝機」をつかむ者が勝つという、極めて当然の事実だった。100点ゲームになるような実力差は別だが、「勝機」は必ず両チームにやってくる。当然、弱いチームの「勝機」は数少ない。しかし、それをつかめば波乱を起こせるし、苦戦をくくり抜けられる。
この事実を再認識させられたのが、高校大会1回戦(12月27日)の八幡工対秋田工の試合だった。八幡工は前半8割方ボールを支配して攻め続けた。秋田工は前に出る激しいタックルで粘り、ドライビングモールを軸に反撃した。極論すれば秋田工はタックルとモールだけ。リスクの高いプレーは選択せず、ひたすら粘る。八幡工は果敢にボールを展開したが、当然ミスも起こる。
最終的には10−7で秋田工の勝利。耐えて、粘って、数少ない勝機をつかんだのだ。これが出場60回の伝統なのかと、感心させられた。
その秋田工も、2回戦では東農大二の前に敗れた。試合を支配していたのは東農大二だったが、前半26分、14−0とリードした東農大二が秋田工ゴールまでPKを得た。すかさず、ベンチの伊藤薫部長がPGを狙う指示を出す。できるだけリードを広げなければ秋田工の粘りが怖いという、経験豊富な指導者ならではの勝負勘だったのだろう。案の定、秋田工は前半終了間際と後半開始早々にトライを奪って14得点。しかし、PGの3点が重くのしかかり、最後は東農大二にとどめを刺された。花園で厳しい試合をくぐり抜けてきた伊藤部長の、ベンチを飛び出しての指示が心に残った。

高校大会の1、2回戦を見て以降は頭から「勝機」という言葉が離れなくなった。そうやって試合を見ていると、啓光学園の「勝機」のつかみ方は凄い。恐るべき嗅覚である。決勝では、天理の素速く前に出てくるディフェンスを怖がることなく攻めて、前半20分で2トライ。常に先に仕掛ける快勝だった。両校の監督がキーワードとして口を揃えた「辛抱、我慢」というのは、勝機をつかむ「辛抱、我慢」なのである。

大学選手権準決勝の関東学院にも同じ事を感じた。地力は法政が上だったと思うが、立ち上がりの15分で2トライを奪い、大勢を決めてしまった。弱いとされたFWもキックオフ直後から全開で飛ばした。勝ち続けているチームは、「勝機」をつかむコツを自然と身につけるのだろう。
関東学院の8年連続大学選手権決勝進出は、啓光の4連覇に劣らない大記録だ。

トップリーグは、昨年の日本選手権覇者・東芝府中ブレーブルーパスが制した。この勢いでマイクロソフトカップも勝ちそうだが、出場8チームの実力差は紙一重。「勝機」をつかみ損なう可能性はある。1回戦4試合で勝敗が明らかな試合は一つもない。
「勝機」をつかむ瞬間を見逃さないように、じっくり観戦しようと思う。