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About Koichi Murakami

11th 最近の日本ラグビーは緩んでいないか?

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最近の日本ラグビーは緩んでいないか? スコットランド戦の100点負け以来、ミスが目立っている。12月19日大学選手権1回戦から国際的には1月1日からのルール改正が適用されることになっていた。目に見えるところでは、タッチラインから15mの地点に縦に引かれている「15mライン」が、22mラインなど、横の線と交差するところだけに引かれていたのを、5mラインと平行に破線として引かれることになっていた。しかし、秩父宮ラグビー場は従来通り。試合にはなんの影響もないが、花園ラグビー場には引かれていたのだから、単純な指示ミスだ。これだけではない。トップリーグで2度連続したフロントローの入れ替えミス。これは、マッチコミッショナー、第三タッチジャッジの不手際。11月23日の早慶戦の早稲田の先制トライは、完全なオフサイドだった。早稲田の選手がキックをチャージして、前にいた選手がインゴールで押さえたのだから。競技規則に「プレーヤーはインゴールでもオフサイドになる」と書いてある。明らかな誤審。この試合は、NHK、テレビ神奈川、ジェイスポーツで放送されていた。このプレーが了解されれば、次の試合で正しい判定をしたレフリーが批判されることになる。誤解を招く間違いは発表して訂正すべきだ。トップリーグの発足によって、試合が増加する一方、運営側は少数の協会職員とボランティアで運営にあたっている。レフリーもしかり。その無理が出始めているような気がしてならない。指揮系統の見直し、有給職員を増やす検討をすると同時に、佳境に入る各大会を前に緊張感を高めてもらいたい。選手はこれからの勝負に命がけなのである。周囲のミスで、選手を泣かせることだけは避けなければならない。

さて、少し長くなるが、レフリーのことを書きたい。子供の頃、近所のおじさんでレフリーをしている人がいた。中学時代、私は友人と早朝ランニングをしていた。薄暗く肌を刺すような冷たい空気の冬の朝、よくその人に会った。日々トレーニングを積んでいたのだ。仕事をしながら早朝に走り、土曜、日曜は試合の笛を吹く。交通費程度の謝礼とお弁当でどこへでも行く。ラグビーが好きだから。選手が懸命に試合をする姿を見るのが楽しいから。それがレフリーの喜びだろう。ラグビーの歴史をたどれば、発祥当時、レフリーはいなかった。反則が起きると選手同士が話し合っていた。それでは無理があるから、信頼できる仲裁人に両チームが合意のもとに立ち会ってもらった。レフリーは選手たちに依頼され、その試合を見守る立場なのである。
ところが、レフリーへの批判が、最近とみに増えている。しかも、批判の多くは当事者チームから噴出している。信頼関係が崩壊しているということだ。トップリーグの発足や、日本代表の契約選手制度にともない、フルタイムでトレーニングを積む実質プロ選手は増えている。海外からやってくるコーチはほとんどがプロだ。いまだアマチュアがほとんどのレフリーとは、ラグビーを研究する時間がかけ離れている。当然、レフリーの癖すらも研究され、試合の流れを寸断する笛、一貫性のない判定は非難の的となる。

冒頭の通り、レフリーの方々の純粋な気持ちは理解しているつもりだ。目の前の反則を見逃せば、立場が揺らぐことも知っている。しかし、心あるレフリーのみなさんを後押しするために、あえて書きたい。ラグビーの主役は選手である。選手が気持ちよくプレーできるレフリーこそが、高い評価を受けるべきだ。試合に大きく影響しない反則、危険ではない反則は、見逃していいのである。トップリーグのNECと神戸製鋼の試合は、NECの予想外の大勝だった。レフリーは、NZ協会のリンドン・ブライさん。両チーム併せて、反則は10個である。日本のレフリーが吹く試合は30個を超えることが多いのにだ。日本の多くのレフリーが声高に叫ぶ「ハンズオフ! ロールアウェイ!」などの言葉もほとんど聞こえない。淡々とした笛だった。それでも選手たちは我慢強く反則せずに戦った。「レフリーが戦わせてくれた」(NEC高岩ヘッドコーチ)。声が少ない方が選手自身がモラルを保てるということが証明されたレフリングでもあった。印象的だったのは、一瞬ノックオンの笛を吹きそうになった時に、手を引っ込めて我慢した姿である。できるなら、彼らにプレーを続けさせてあげたい。ラグビーへの愛情があふれていた。もちろん、日本人レフリーがみんな批判されているわけではない。トップレフリーの下井さんの優しい笛はファンに人気だし、大学選手権の1回戦法政大学対近畿大学戦の平林レフリーも、自らは目立たず、けっして声を荒げることなく選手に対処しており、見ていて気持ちがよかった。興奮している選手を、自らも興奮してあおってしまうレフリーのなんと多いことか。レフリーは冷静さを欠いてはいけない。鉄則である。数年前、日本協会会長だった川越藤一郎さん(故人)にこんな話を聞いた。「ラグビーなんて、競技規則の文面通りに吹いたら、反則だらけですよ。でもね、ラグビーの規則はLAWと言いましてね。法なんです。(ラグビー発祥の)英国の法律は習慣法だから、ケースバイケースで適応が変わるんですよ。日本人は法律を厳格に受け止めすぎるんです」。競技規則の文面通りに吹く必要なないのだ。規則をうまく操って一貫性のある笛を吹き、選手の抗議に心を乱すことなく、言葉はあくまで優しく丁寧に、安全でフェアでボールが動き回る魅力的な試合を演出する。選手を、試合を、生かすも殺すもレフリー次第。ラグビー人気上昇の鍵を握るのは間違いなくレフリーである。周囲も、素晴らしいレフリングには賞賛を。選手とファンが選ぶベスト・レフリー賞もトップリーグは創設すべきだ。彼らのステイタスを高めて、尊敬される存在にしていかなければ素晴らしいレフリーは生まれない。選手とファンが支持するレフリーこそ、いいレフリーである。選手たちが織りなす素晴らしいプレーに思わず笛を吹くのを忘れる。そんな人間味あふれるレフリーに会いたい。